10. 元木社長

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10. 元木社長

すべての見学を終えて1階のエントランスに降りると、僚の父と欧米風な顔立ちの男性がソファーに座っていた。そして一行がエレベーターから降りてくるのが見えると、僚の父がこっちだというように手を挙げた。 「あぁ来た来た。僚、紹介する。父さんの先輩の元木雄一郎さんだ。この会社の社長さんだ」 僚の父が紹介している傍らで、元木社長は6人の顔をじーっと見ている。 「あ、あの、初めまして。葉山僚と言います。今日はありがとうございました」 僚は父がいる手前、きちんと挨拶をしなければいけないと思い、勇気を出して言った。他の5人も、何も言わずに見つめてくる社長に、どうしたらいいかわからないでいた。 「社長、子供たちが怖がっていますよ」 元木にそういわれ、はっとなった元木社長は 「失礼したね。GEMSTONE社長の元木雄一郎と言います。みんな今日は楽しかったかい?」 と先ほどとは打って変わって柔らかい雰囲気で聞いてきた。 僚「はい、思ったより楽しかったです」 竣亮「ずっとドキドキしていました」 誠「歌もダンスも面白そうだった」 深尋「みんながやるなら、深尋もやりたーい」 明日香「私にできるかな.....」 隼斗「俺はできそうだけどな」 と6人6様の答えが返ってきた。それを聞いた社長は 「そうかそうか」 と満足そうにしていた。そして元木社長は保護者達に向き直って言った。 「葉山くん、そしてお母様方、改めて本日はありがとうございました。息子から素晴らしい子供たちを見つけたと聞いて、今日会えるのを楽しみにしていました」 「こちらこそ、見学のためにいろいろ良くしてくださり、ありがとうございます」 母親たちがお礼を言う。 「いえいえ、私は今日だけのご縁で終わるつもりはありません。先ほど葉山くんから説明会を相談されたのですが、私たちも親御さんに納得していただきたいと考えておりました。それで来週か再来週あたりにでも、子供たち全員の保護者の皆様と子供たち本人に、より詳細なカリキュラムのお話をしたいと考えているのですが、いかがでしょう?」 そこまで言うと、竣亮の母がおずおずと聞いてきた。 「あの、社長さん。歌とかダンスは単なる習い事ではないのですか?デビューがどうのと話していましたが.....」 「うちは芸能事務所です。なので練習生の目標は歌手デビューとなります。もちろん、練習生全員が歌手デビューできるわけではありませんが、もし将来そうなった場合は、当事務所のスタッフで万全のフォローをしますし、長く活躍できるよう尽くしていくことをお約束いたします」 社長は竣亮の母の目を見てしっかりと答えた。 「....そうですか」 竣亮の母は小さな声でそう言うと、それ以上何も言わなかった。 そして深尋の家には藤堂姉弟の母から、誠の家には僚の父から話をし、6人の保護者で説明会の日にちを決めるということになった。 竣亮の母は社長の言葉がずっと気になっているらしく、帰りの車の中では黙り込んでしまった。それを見た僚の父が見かねて 「国分さん、そんなに心配されなくても大丈夫ですよ。芸能界へのデビューは狭き門です。そんな簡単にデビューなんてできませんよ。今はまず、子供たちのことを考えましょう」 そう声を掛けた。そして竣亮の母も、今はそれで納得するしかなかった。
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