26. 恋の始まり③

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26. 恋の始まり③

美里と別れ自宅に帰りながら、誠は自分がなんでこんなに美里にかまってしまうのか考えていた。 隼斗が美里と一緒に日直業務をしていた日、力もないくせに重たいノートを持とうと四苦八苦しているのを見た時から、何となく目が離せなくなっていた。 一緒に職員室へ行くときも、自分の歩調に合わせて一生懸命ついてこようとする姿に内心ドキッとさせられた。いつも一緒にいる明日香や深尋だと、こういう時はすぐに、 「誠早い!」 と言ってくれるから、美里みたいに何も言わずに頑張ってついてこようとする姿がとても新鮮だった。そのあとも、隼斗に会いに行っては、美里の姿をちらちらとみていた。だから、体育館でクラスメイト達が美里たちに気づいたとき、ちょっともやっとしてしまった。 今日もそうだ。どんなにボールを投げてもリングに届かず、はぁはぁと息が上がっている美里を見て<かわいい>と思ってしまった。名前で呼んでほしくて<誠くん>と言われたときは、胸がドキドキしてしょうがなかった。 極めつけは、美里が顔にじんわり汗をかいて、それを拭くために眼鏡をはずした時、一瞬で心を奪われてしまった。 「あ......そっか。おれ、美里のこと.......」 (好きなんだ) 急に自覚してしまったこの気持ちは、どんどんどんどん膨らんでいく。 不愛想な誠が、初めて本気で人を好きになった。 それから約束通り、日曜、火曜、木曜以外の放課後、誠と美里はあの公園でシュート練習をしていた。そして2人で練習をするようになって、ちょうど1週間の土曜日。この日も誠と美里は2人で練習をしていた。 美里は、ボールをリングに入れることはできていないが、リングにボールが届くようにはなっていた。 「あともう少しなんだけどな.....」 この日何回目かのボールがリングに弾かれて、美里がため息交じりに言う。 すると誠は美里の後ろに立ち、 「肘はこれくらいの角度で、腕だけで投げようとしないで膝を使って投げてみて」 と言いながら、美里の腕を掴んで角度を修正する。その瞬間美里は、また心臓の鼓動が早くなった。 誠の大きな手にすっぽりと包まれた自分の腕。筋肉質な誠の腕に着けている腕時計ですらかっこよく見えてしまう。でも美里はすぐに現実に戻る。 (こんなにかっこいい人が、こんな地味で眼鏡の私なんて相手にするはずない。明日香さんみたいにきれいな人が、誠くんのそばにはいるんだから...)と。そんなことを考えていると、誠に急に話しかけられる。 「それじゃあ美里、この状態で投げてみて」 そう言われて美里は(いけない!集中!)と、自分の気持ちを引き戻し、ポーンとボールを投げる。すると、パスッと初めてボールがリングの網の中に入り、ポンポンポンと落ちてきた。 「.......入った」 「入ったな」 美里はあまりのあっけなさにしばらく言葉が出なかったが、やっと実感がわいてきたのか、後ろに立っている誠の方を振り向いて、 「やった!やった!誠くんっ入ったよ!」 といってハイタッチしてきた。誠もその勢いに押されて、美里に向けて両手を出し、自分よりも小さい美里の掌が自分の掌にペチペチと当たる感触を確かめていた。そして次の瞬間誠は、美里の両手をぎゅっと握り、美里の体を引き寄せると自分の腕の中に抱いてしまっていた。 ほとんど衝動的な行動だった。つい先日、自分の気持ちを自覚したばかりだというのに、美里を抱き締めたいという欲望のまま行動してしまった。 「あ.....あの、ま、ま、誠くん.....?」 美里は驚き固まっている。それもそうだろう。誠本人も驚いているのだから。でも、ここまでしておいて逃げるわけにはいかなかった。誠はふぅーーーっと長めに息を吐き、抱き締めたまま美里の耳元で囁いた。 「美里、俺と付き合ってほしい......美里が好きなんだ」 (⁉⁉⁉) 美里は一瞬何を言われたのかわからなかった。 (え⁉す、す、す、好き⁉誠くんが⁉私を⁉) 美里は混乱しすぎて、息をするのも忘れてしまっていた。 「.....美里?おい、大丈夫か?」 自分の言葉にウンともスンとも言わない美里の顔を見ようと、誠が屈んで美里の顔を見ると、その顔は茹でだこみたいに真っ赤になっていて、若干涙目になっていた。その顔が誠的にはドツボだったらしく、またぎゅっと抱き締め美里の耳元で、 「......かわいいな、美里」 とデレる。 (!!!!!) もうすでにキャパオーバーの美里は、今にも倒れそうになっていた。 それから腕の中からは解放してもらったものの、両手は誠につながれたまま、美里が誠に尋ねる。 「あ、あの......わたし、と......つ、つ、付き合って.....ていうのは......」 「本気だよ。この間は友達って言ったけど、美里と友達は無理。美里には友達じゃなくて彼女になってほしい」 誠は美里の顔を見てはっきりとそう告げる。 「で、で、でも、わたし、かわいくもないし......」 「......?美里はかわいいよ。さっきも可愛かった」 「ど、ど、どこが......!」 「なんか、一生懸命なところ。あと、頑張り屋なところも。全部かわいい」 普段不愛想な誠がデレると、その破壊力は抜群だった。これが長身のイケメンだからなおさらだ。しかし、明らかにキャパオーバーの美里を見た誠が、 「美里、返事は......」 急がないよと言いかけた時、 「ほ、本当に....わたしで....いいの?」 と聞いてきたので、 「俺は美里がいい。美里じゃないと嫌だ」 と言った。すると、 「こ、こんな.....わたしでよければ......お、お、お願い....します」 と、真っ赤な顔で返事を貰えた。 OKの返事をもらった後、誠は嬉しすぎてまた美里を抱き締めてしまった。 そして、 「今度、俺の大事な友達を紹介する。あと、話さないといけないこともあるから、時間を空けてほしい」 と美里に告げる。それを聞いて少し不安になったが、 「大丈夫。俺とその友達に関することで、知っておいてほしいことだから」 という誠の言葉を信じることにした。
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