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27. 恋の始まり④
時は遡り、1週間前の土曜日。
公園でバスケの練習をしていた誠と別れた隼斗と明日香は、僚との待ち合わせのためいつものショッピングモールへ来ていた。
しかし、今日は込み入った話をする予定なので、フードコートではなく、モール内にあるコーヒーショップで待ち合わせをしていた。
隼斗と明日香が店に着くと、一番奥のソファー席で僚がコーヒーを飲みながら本を読んでいるのが見えた。
「明日香、先に座ってていいぞ」
隼斗が注文したコーヒーを受け取ってくれるらしいので、明日香はそのまま僚がいる席へ向かった。
「僚ごめん、待った?」
明日香は僚の向かい側に座りながら聞く。
「んーー?そんなに待ってないよ。本読んでたし」
明日香に気づくと、僚はパタンと本を閉じ、コーヒーを一口飲む。
その動作が大人っぽく見え、明日香はなぜかドキドキしてしまった。
「ほら、明日香」
後ろから隼斗がコーヒーを持ってきて明日香に渡すと、僚の隣に腰かけた。
「それで、どうするの?」
早速、明日香が僚に聞く。
今日のこの呼び出しは、昨晩僚からの電話がきっかけだった。
明日香のスマートフォンに僚の名前が表示され、呼び出し音が鳴った。
(僚から?なんだろう.....)
不思議に思いながら電話に出る。
『もしもし?』
『ごめん明日香。夜遅い時間に』
『ううん、大丈夫だよ。どうしたの?』
『うん......あのさ、今日学校で市木に俺のスマホを見られちゃってさ.....』
『うん』
『その時、明日香の名前も見られてさ......』
『..........うん、それで?』
『それで、番号を教えろってうるさくて......』
『教えたの⁉』
『教えてない!教えてないよ。それは大丈夫。さすがにそれはできないって、市木に怒ったんだ』
『............』
『そしたら、来週の土曜に明日香と遊びに行く約束を取り付けろって言われて......』
『......え?』
『しかもあいつ、それが出来なかったら、明日香の学校に行くとか言い出して......ごめん明日香。何度かはぐらかしたんだけど......』
『ううん。僚が謝らなくてもいいよ。もともと私が簡単に約束したのが悪いんだし。問題は隼斗なんだけど......』
『そうだよな.....あいつ明日香のことになると勘が鋭いんだよな』
『ははは...』
『とりあえずさ今日はもう遅いし、もし明日予定がなかったら、モールのコーヒーショップで待ち合わせして、そこでゆっくり話そうか?』
『うん、わかった。ね、隼斗も連れてきていい?』
『そうだな。黙ってる方がうるさくなりそうだし、その方がいいかも』
『じゃ、そういうことで。おやすみなさい』
『おやすみ』
こうして昨日の電話があり、今日3人で待ち合わせをすることになった。
「そもそもさ、その市木ってやつ。明日香のことどこまで本気なの?」
「それは俺にもわからん。でもひとつ言えるのは、あいつは来るもの拒まず去るもの追わずで、1人の女の子に執着しているのを見たことがないんだよな」
僚は、中学時代から今までの市木を思い浮かべながら話す。
「はぁ.....なんであんなちゃらんぽらん男が、あんな偏差値の高い学校に入れたんだろ?」
「あーーーー。市木は一応、実家が総合病院のボンボンなんだよ。あいつあれでも医者志望だし。成績も俺より全然上だよ」
それを聞いて隼斗は絶望した顔をする。
「神様って不公平だよなー」
そう言って、コーヒーをごくんと一口飲む。
「ごめんね僚。迷惑かけて......」
「迷惑じゃないよ。ただ、あいつが明日香の学校まで行くって言いだしたから、あれ以上はぐらかすのが無理になっただけで......」
僚は、市木が明日香と初めて会った翌週から、何かと明日香のことでしつこく言われてたらしい。
「だからと言って、明日香を市木と2人だけにするのは危なすぎるしな....」
「でも、そんなに心配しなくても、暗くならないうちに帰れば大丈夫じゃない?」
と明日香が言うのを聞いて、隼斗はとんでもない!と力説する。
「いいか、明日香。俺が言うのもなんだが、俺らくらいの年の男は、一日中、いや一年中、朝から晩までいやらしいことを考えているんだ!だから、明るいとか、暗いとか関係ない!」
「隼斗も、僚も?」
「そうだ!俺も、僚も、なんなら誠も竣亮だって、みーんなそうだ!」
「ええ.....」
明日香は目の前にいる2人を見て引いてしまった。すると、僚がコホンと1つ咳ばらいをして、
「まぁとにかく、男と2人だけということは、とっても危ないということ。明日香は俺らとの付き合いが長いから、他の男がどうかわからないだろうけど、隼斗が言ったことは大げさでもなんでもないよ」
僚らしく優しく説き伏せる。
「でも、だからってこのままってわけにはいかないし.....」
うーーーーん。と3人で頭を悩ませていると、隼斗がそうだ!と言い出した。
「あのちゃらんぽらん男さ、俺は(=番犬)くるなって言ってたよな?」
「そうだね.....」
「ということは、俺以外の誰かが行けばいいんじゃね?」
などと言い出した。
僚と明日香はどういうこと?と2人で顔を見合わせる。
「だから、明日香とあいつのデートに、僚が一緒に行けばいいんだよ!」
「.......はぁ⁉おれ⁉」
僚は突然の指名に驚く。
「まず、俺が心から信用できるのは僚、誠、竣亮の3人だけだ。そして、この中から選ぶとすると、まず竣亮は優しすぎてダメだ。簡単にあいつに撒かれてしまう。そして誠は、うーん......なんか今日、立花さんといい感じだったし、とりあえず無理っぽい。だから、僚。お前を明日香の護衛に任命する!」
「護衛って......」
「もう隼斗、無理言わないでよ。僚だって困ってるし.....大丈夫だよ私1人で行くか......」
明日香がそう言い終わらないうちに僚が、
「わかった。明日香、俺が一緒に行くよ。市木には悪いけど、こっちだって嘘はついてないし、元はと言えば俺が市木に明日香を紹介したのが原因だし」
そうして結局、それ以上の良い案が浮かばなかったため、僚が市木には内緒で行くことで話がまとまった。
後日このデートで明日香は、恋を自覚することになる。
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