55人が本棚に入れています
本棚に追加
2. 紡木小学校5年2組
スカウトされた翌日。今日は1学期の終業式の日。
明日から夏休みということもあり、子供たちは朝からそわそわ落ち着かない。
風見市立紡木小学校は1学年に3クラスほどの小学校だ。
6人は紡木小学校に通う5年生である。
5年生になって初めて全員が同じクラスになり、班の活動で仲良くなったのをきっかけに放課後もつるんで遊ぶようになった。仲良くなった大きなきっかけを作ったのが双子の藤堂姉弟である。
もともと男の子同士、女の子同士仲が良かったのが、藤堂姉弟のつながりでより仲が深まった。
その藤堂姉弟は男女の双子であるが、これまでも1年生、3年生の時に同じクラスになっている。同じクラスになることで手間が省けることも多く、学校の先生方はわざわざ別のクラスにしようとは考えていないらしい。
その5年2組の教室に藤堂明日香、隼斗の双子の姉弟が登校してきた。なんだかんだと毎日一緒に登校してくるので、本人たちは認めないが仲はいい。
2人が教室に入るやいなや、
「明日香ーおはよー。ついでに隼斗もー」
と、明日香の親友の新井深尋がそばに寄ってきた。
「ついでは余計だよ面食い女」
と隼斗が悪態をついても、2人はいつものこととばかりに気にしない。
「おはよう深尋。ねえねえ、昨日のこと誰かに話した?」
明日香は席に着く前に昨日からずっと気になっていたことを深尋に聞いた。
すると深尋は明日香の袖を引っ張り、教室の隅のほうへと移動する。
「あのさ、パパとママに言って名刺を見せたら、ネットで調べてくれたの」
「うちもだよ。隼斗と一緒に話したら、びっくりしてた」
「それで、なんだっけ?じぇむすとーんっていう事務所が本当にあって、そこの社長が昨日のイケメンお兄さんと同じ苗字だったの」
「え、だったらやっぱりあのお兄さん....」
と言いかけると、突然
「明日香、深尋」
と後ろから声を掛けられた。悪いことをしている訳でもないのにビクビクしながら振り向くと、そこにはいつの間にか隼斗と6人の中心人物である葉山僚が立っていた。
「あ、僚。おはよう...」
「おはよー」
「おはよ。あのさ、昨日のこと家族以外に誰かに話した?」
挨拶もそこそこに僚は2人に聞いた。
「ううん。誰にも話してないよ」
「わたしもー。ねぇ、今日お兄さん河川敷に来てくれるかなー?」
昨日の元木のことを思い浮かべながら、深尋が尋ねる。
こいつ、相当あのお兄さんが気に入ったんだなと僚は思ったが、いちいち相手していると話が進まないので、無視することにした。
「いいか、昨日のことは内緒にすること。家族以外の誰にもしゃべったらだめだ」
「先生にも?」
「.....それは親に任せよう。とにかく、俺たちだけの秘密だ」
「それ竣亮と誠には言ったの?」
明日香がそう言って教室をぐるりと見渡すと、ちょうど2人が入ってきた。
「竣!誠!」
僚は教室に入ってきた2人に手招きをする。
「みんな、おはよう」
へらっとはにかみながら国分竣亮が挨拶をする。
「ういっす」
と片手をあげて挨拶するのは色黒のスポーツマン崎元誠だ。それから僚は2人にも、
「昨日のことは俺たちだけの秘密だ」
と話した。深尋が「なんでー?」と聞いたが、僚は「また放課後に話すよ」とだけ告げた。5人は一番しっかり者の僚が言っているのだからそうしようとその話はそこで終わった。
そうして6人での秘密会議が終わると同時に始業ベルが鳴り、それぞれの席に着いた。
体育館での終業式が終わると、教室に戻り先生から通知表が配られた。
「うわ!僚くんすご!」
「◎ばっか。さすがだな」
竣亮と誠が僚の通知表を後ろの席からのぞき見ていた。
「お前ら、でかい声出すな」
後ろを振り向き、キッと睨んだがもう遅い。席が離れている明日香のところまでばっちり聞こえていた。それを聞いて明日香はふと疑問に思った。
(僚って放課後いつも私たちと遊んでいるけど、いつ勉強してるんだろ?)
うーん...と考えていると、近くにいたクラスメイトの女子たちがきゃあきゃあと話しているのが聞こえてきた。
「葉山くんすごいね。頭もいいし、スポーツ万能だし、なんたってかっこいい!」
「ね!1組と3組の女子に、2組の女子がうらやましいって言われたよ!」
「わたしも!あと、いつも一緒にいる藤堂くんもかっこいいしね」
(?? 隼斗がかっこいい?そうなの?)
いつも一緒にいる姉としては謎だった。僚がモテるのは知っていたが、隼斗までとは思わなかった。それに加え、竣亮は中性的でかわいらしい顔をしており、誠は日に焼けたスポーツマンで、実はこの2人にも隠れファンが多いことを知っていた。
そういうことを踏まえて、放課後6人で遊んでいることは他のクラスメイトには言っていない。余計な妬み嫉みをぶつけられるのは勘弁してほしいというのが本音だ。
(やっぱり、あの男子4人と毎日遊んでいるのは内緒にしよう)
明日香は隼斗を除く3人の男子を特別意識したこともないし、なにより6人で遊んでいるのが楽しかった。
変に気を使うこともないし、逆に気を使われることもない。一緒にいて楽で、居心地のいい友達なのだ。そんな関係を壊したくはなかった。
「明日香ー帰ろー」
ホームルームが終わり、明日香の席に深尋がやってきた。
今日は終業式のため給食はなく、昼前に学校が終わった。
「深尋、今日家の人は?」
「ママは昼勤で、パパは今日から出張でいないの」
「じゃあ、うちで一緒にお昼ご飯食べる?どうせ河川敷に行くんだし」
「ほんと?いいの?」
「いいよ。うちのお母さんも喜ぶし」
「やった!おばさんのご飯好きなのー」
2人でそんな話をしながら靴箱に行くと、僚と隼斗も上履きから靴に履き替えているところだった。
「あ、明日香。今からお前んちにお邪魔するな」
僚が靴に履き替え、向き直りながら明日香に言う。
「え...あぁうん。別にいいけど。深尋も今からうちに来るし」
「げぇ、深尋も来るのかよ」
隼斗が嫌そうに言う。
「私は隼斗の家に行くんじゃないの。明日香の家に行くんだよ」
「うるせー屁理屈言うな!明日香の家は俺の家でもあるんだからな」
隼斗が深尋に詰め寄る。
「はいはい、私に明日香を取られたからって焼かないのー」
「~~~...お前、俺をシスコン扱いするなって言ってるだろ!!」
「隼斗がいくら否定しても、シスコンなのはバレバレだよー」
へへーんと深尋が隼斗を挑発する。
その2人の言い合いを、僚と明日香はあきれながら見ていた。
「もうほっといて行こうか」
「そうだな、どうせ目的地は同じだし。ケンカしながら帰ってくるだろ」
僚はそう言うとぷいっと玄関を出て、正門に向かって歩き出した。
「深尋、隼斗、先行ってるよ」
明日香も2人にそう言うと僚に続いて行った。
「あー!待ってよ明日香ー」
「おまっ、深尋!俺より先にうちに入るのは許さんからな!」
ぎゃーぎゃー2人で言い合いながら、後ろから追いかけてきた。
こうして口喧嘩をしても本気になることはなく、言うだけ言った後はあっけらかんとしている。この6人はそういう関係なのだ。
明日から夏休み。今年はいったいどんな夏になるのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!