33. 隼斗の憂鬱

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33. 隼斗の憂鬱

俺の双子の姉、明日香は、俺が言うのもなんだが美人だ。 自慢じゃないが、家の近所では美男美女の双子として有名だし、小中学校の時は、同級生の男子が群がってきた。俺はそれを阻止するので毎日忙しかったくらいだ。 そんな中でも、唯一明日香のことを色眼鏡で見ない存在がいる。それが、僚、誠、竣亮の3人だ。だから俺はこの3人のことを信頼しているし、俺がいないときには明日香を守ってくれる存在になると信じている。 ところが先日、僚の友達の市木ってやつが明日香に近づいてきやがった。見るからにチャラくて、軽くて、ちゃらんぽらんな男だ。しかも俺がどんなに牽制しても、めげるどころかデートの約束まで取り付けやがった。本当にしつこい男だ。 押しに負けた明日香はそいつとデートすることになったが、俺だって負けていない。僚を同行させるという作戦を企てたんだ。 でも、その日帰ってきてから、明日香の様子がおかしかった。夕飯もいらないと言って、部屋に引っ込んだし、翌日も具合が悪いと言ってレッスンを休んだ。僚に聞いても、市木がいることを除けば、普段通りだったと言う。でも、何かがおかしいんだ。俺の双子センサーが異常を示している気がしてならなかった。 翌日は球技大会だったから、明日香よりも先に家を出た。思えば土曜の朝に顔を合わせて以来、明日香の顔を見ていない。こんなのは初めてだった。 球技大会が終わって、クラスのみんなでモールのゲーセンで遊ぶことにした。金のない高校生にはちょうどいいだろう。いつもよく立ち寄るフードコートを見ると、土曜ぶりに見る明日香の姿を見つけた。ついでに深尋も。俺はそれに気づいて、走って行って明日香の顔を見た瞬間、ショックを受けた。それは小さい頃夏祭りで迷子になった明日香を見つけた時と同じくらい、いや、それ以上だ。 あのきれいで大きな明日香の目が、赤く腫れあがっていて、ボテッとしている。白いきれいな鼻筋も、鼻の頭が真っ赤っかになっていた。そして話を聞くと、どうやら失恋したらしい。しかも相手は僚だ。 俺はそれを聞いた瞬間、明日香のどこが不満だと言ってやりたくなったが、どうも僚には牧という名前の彼女がいるらしい。 でも、おかしいな。俺はそんな話聞いたことないぞ。いくら学校が違っていても、彼女が出来れば、言ってくれると思うんだけどな。あいつは昔からモテるけど、硬派というか、ただの奥手なんだろうと思っている。特に言い寄ってくる女子が苦手で、言い寄ってきた瞬間、相手に嫌悪感が増すという変わったやつだ。 そんな僚が、自分に好意を寄せてきた相手と付き合うとは思えなかった。しかも僚は、明日香のことを友達以上には思っていないそうだ。そういう所は、俺が見込んだだけのことはある。 でも、明日香が失恋した事実は変わらないし、僚に自分の気持ちは伝えないと言っているから、俺には見守るしかできない。つらそうにしている明日香を見るのは、正直、俺もつらい。 明日香が失恋で落ち込んでいると思いきや、誠は彼女が出来てウキウキだ。ちょっとは明日香のことも考えろ!ハゲ!と、心の中で悪態をついていた。 しかもその相手が、俺と同じクラスの立花さんだったから、なおさら驚いた。 あの2人がどこで接点を持ったのか、俺には全くわからなかった。思い出せるのは俺が日直の時、立花さんが職員室に持っていこうとしたノートを、誠が一緒に持って行ったことくらいだ。時間にして10分も掛かってないだろう。 おい、まさか、その10分間で?だとしたら誠の奴、相当なスケコマシだぞ。あいつ『女になんか興味ありません』キリッみたいな顔して、ちゃっかりしてんな!はっきり言ってうらやましいぞ‼でもな、明日香の前でそんなへらへらした顔するなよ!許さんからな! 俺の友達は本当に忙しい。明日香は失恋して、誠は彼女が出来て、竣亮はなんと俺の学校に転校するってよ。びっくりだよ。 でもな、あいつもイヤな思いをしたし、無理してそんな学校に通わなくてもいいと思うんだ。それに、同じ学校に通うのも小学校以来だし、何気に楽しみなんだよな。 竣亮はなー、俺らの中では癒しなんだよ。あのほんわかした雰囲気が、他の奴らにはないし、竣亮がいるだけで場が和むんだよな。だからみんな竣亮には甘くなるんだけど、それに甘えることなく頑張るのが竣亮なんだよ。学校を変えて心機一転、頑張ってほしいな。 それとあいつ、なかなかかわいい顔してるから、人気出るかもな。はっ、竣亮にまで先に彼女が出来たらどうする⁉僚だって噂ではいるらしいし、俺もうかうかしてられんな。 あ、深尋はそろそろ元木さんのことは諦めろよ。絶対無理だと思うから!
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