buddy ～絆の物語～

4. それぞれの思惑

明日も来るねとは言ったものの、時間までは伝えていなかったためどうするか悩んだ末、昨日よりも早めに来て子供たちが現れるのを待つことにした。
といっても、炎天下の中をずっと待つのはしんどいので、どこか日差しを避けられるところはないかと河川敷をぐるっと見渡すと、ちょうど橋が架かっており、その下なら涼しいだろうとそこへ向かって歩き出した。
橋の下へ近づくと、子供たちが何やら話しているのが見える。
（先客がいたか....）
あまり変に近づいて不審者に思われてもな、と一瞬思ったが、よく見てみると昨日自分が名刺を渡した6人だった。
（こんなところにいたのか....）
元木は恋人にでも会えたかのような気分で6人に近づいて行った。

「やぁ、君たち。こんなところにいたんだね」
そう声を掛けると、6人はパッと立ち上がった。
「あっ、お兄さんこんにちはー」
「.....こんにちは」
深尋と明日香が挨拶をする。男の子たちは昨日の別れ際と同じく無言だ。
すると、僚と隼斗が深尋と明日香の前にさっと出てきて、元木から隠すようにする。それを見て誠と竣亮も僚と隼斗のそばに立ち、男の子4人の壁ができた。壁と言っても身長はみんな同じくらいなので丸見えだ。それを見て元木は
（小学生なりに女の子を守ろうとしているのか、かわいいなー）
などと、悠長なことを考えていた。

「こんにちは。今日は早いね。もう学校終わったの？」
「うん、終業式だったのー。明日から夏休みなんだよー」
「深尋っ」
僚が深尋に口止めしようとするが時すでに遅し。
（うーーーん。警戒されてるな....）
どう切り出そうかと悩んでいると、意外にも僚の方から話しかけてきた。
「あの、昨日親に名刺を見せて、あなたのことを話しました」
「うん、ご両親はなんて言ってた？」
「名刺の会社をネットで調べて、その....社長さんの名前とあなたの名前が一緒でした」
「うん、僕の父だからね。名前は元木雄一郎」
「その社長さんが、僕の父さんの大学時代の先輩で、社長に...会いたいって」
「.....え？」
元木は思いもよらないことを言われて、びっくりした。
（父さんの大学時代の後輩がこの子の父親.....こんな偶然あるのか....）
僚は元木に構わず話を続ける。
「だけど、連絡先が分からなくなってしまったみたいで、もしあなたに会うことがあれば、その....社長さんの連絡先を教えてほしいと頼まれました。無理なら無理で大丈夫だとも言っていました」
申し訳なさそうにそう言う僚を見て元木は、大人のズルい考えが過った。

「そうなんだ。僕が父に連絡してこのことを伝えるのは簡単だけど、そのためには君のお父さんの名前を聞かないといけないよ？」
と確認するように僚に聞いてみる。すると
「わかってます。父さんの名前は葉山洋輔。僕は葉山僚と言います」
僚は警戒しながらも堂々と元木に言った。
その様子を5人はじっと見つめている。
「ありがとう。じゃあ、ちょっとまってて。父に電話してくる」
そう言うと元木は電話を掛けるため、橋の下の日陰から日なたへ移動して行った。

元木が電話を掛けに行った後、僚は悩んだ。自分の名前を伝えるのはいい。父親に頼まれたことだから。だけど、隼斗たちには関係ない。巻き込んではいけないと.....
でも、僚の名前を聞いただけであの人が帰ってくれるのかと考えると、そうは思えない。そんなことを考えていると、どうしていいかわからなくなってきた。
「僚、大丈夫？」
明日香が不安そうに聞いてくる。
「うん、大丈夫だよ。父さんの知り合いの会社の人だし、変なことにはならないよ」
安心させるように答える。しかし、そんなこととは関係なしに深尋が
「私もあとで自己紹介していーい？」
というと、全員から
「「「「「ダメだ！」」」」」
と返ってきた。

元木が父親に電話をして戻ろうとすると、なにやらまた揉めているらしい。
ダメとかケチとか言い合っているのが聞こえてくる。
その様子を見て元木は単純にうらやましいと思った。元木には女友達と呼べる相手がいなかったからだ。
正確には、元木が女友達だと思っていても、相手がそうではなかった。友達として付き合っていても、最終的には好意を持たれ執着される。中には付き合っていないのに、彼女だと言いふらす人もいた。
なのであの子たちを見ていると、異性の壁を感じさせない友情が存在し、それは自分には決して手に入れることのできないものだと思うと、どうしても魅かれてしまう。だから目が離せないんだろう、そう思った。

6人の元に戻った元木がからかうように言う。
「あははは、ケンカしてるの？」
「ケンカではありません。注意です」
僚がキリっと答える。
「お兄さーーーん。僚たちが深尋は自己紹介しちゃダメだって言うのーー」
深尋は泣いてもいないのに泣いたように見せて言ってくる。
（うーーーーん。この子の下の名前が深尋ちゃんっていうことを昨日から知っていると言うべきか.....）
やっぱり、しっかりしていても小学生。詰めは甘い。お互い下の名前で呼び合っていたので、元木は大体の名前は把握していた。
しかし、自分とこの子たちにはまだまだ心の距離があると思い、その事実は隠しておくことにした。

「父に電話したら、君のお父さんの葉山洋輔さんのこと知っていたよ。電話番号を教えるように言われたからメモを渡すね」
そう言うと元木はカバンの中からメモ帳とボールペンを取り出し、携帯電話を見ながらさらさらとボールペンを走らせた。そしてメモ帳をビリっと1枚破り４ツ折りにたたむと、はいっと僚の目の前に差し出した。
「ありがとうございます......」
そう言って受け取ろうとすると、元木はひょいっとメモを上にあげて僚の手に届かなくする。僚がムッとして元木を睨むと、元木は逆ににっこりとほほ笑んだ。
「葉山僚くん、君のお願いを僕は聞いたから、今度は僕のお願いを聞いてくれるかな？」
やっぱりただじゃ終わらないか....と僚は思った。
「.......僕だけでできることでいいなら」
せめて皆を巻き込まないようにしようと思った。しかし元木はそう甘くはなかった。

「僚くん、他のみんなも一緒に事務所の見学に来てほしいな。もちろん親御さんも一緒にね。そしたら怖くないでしょう？そうだ、僚くんがお父様を連れてきたら僕の父ともそこで再会できるし、一石二鳥じゃない？」
そう言われて僚は、やっぱり大人はズルいと思った。
こんなことを言われては、怪しいというだけでこの人の誘いを断れないと。
この人がどこまで本気で僕たちにこんなことを言っているのかわからないけれど、断るならちゃんと大人から断ってくれないとだめだと思った。
「お兄さんの会社、深尋行きたーい」
またも余計なことを言う深尋。
「深尋は黙ってて！」
と明日香が言うと、
「えーーーだって明日香のお母さん、桜木純平のファンだから、見学できるんなら行きたいって言ってたじゃーん」
「！！！！！」
5人にとって強烈爆弾、元木にとっては援護射撃をお見舞いする深尋。

「深尋ちゃんは僕の味方みたいだね。桜木純平は今売り出し中のシンガーソングライターで、僕も一時期マネージャーをしていたよ。事務所にはレコーディングスタジオもあるから、タイミングが合えば紹介できると思うし、どうする？」
今度は僚だけではなく、6人全員に聞く。
「はい！深尋は行きたい！」
深尋は真っ先に答える。そして、他の5人は考える。
深尋が明日香の母親に今日のことを話し、勝手に断ったと知られたら絶対に怒られる（特に藤堂姉弟が）そして、僚は不用意に近づき過ぎたことを後悔している。僚1人のせいにしたくない。だったら、みんなで行ったほうがいいのでは......
仲間意識の強い6人が導き出した答えは、
「わかりました。見学だけだし、みんなでお邪魔したいと思います。日にちはまた連絡してもいいですか」
この答えしかなかった。
（一歩前進した！！）
元木は喜びを隠せなかった。そして、お預けにしていたメモを僚に渡すと、
「ありがとう、GEMSTONEはいつでも君たちを歓迎するよ！必ず来てね！」
そう言って元木はこの日一番の笑顔を6人に見せた。

元木と別れた後、6人は今日話したことを整理していた。
「俺、歌とかダンスとか全然興味ないんだけど....」
渋い顔をして誠が話す。
「僕は、あまり体力がないからついていけるかわかんないな」
自信なさげに竣亮が言う。
「まあでも見学だけだし、俺たちが興味ないってわかったら諦めてくれるんじゃないか？」
元気づけるように隼斗が声を掛ける。
「とりあえず、お母さんを連れて行って満足させることができればそれでいいよ」
やや投げやりに明日香がボヤく。
「みんな、巻き込んでごめん。俺だけで済めばよかったんだけど....」
申し訳なさそうに僚がつぶやく。
「わたしは、超たのしみー」
1人浮かれる深尋。
深尋の天真爛漫な性格は皆わかっているが、今日ばかりは本当に参った、というのが他の5人の共通見解だ。
「とりあえず、今日のことをそれぞれ家の人に話して、明日また話そうか」
僚がそう言って、今日は解散となった。