59. 修羅場からの新展開

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59. 修羅場からの新展開

「新井さんは、藤堂くんと幼馴染って言ってたけど、もしかして葉山のことも知っているの?」 木南に質問された深尋は、正直に答える。 「うん、知ってるよ。僚とも小学校からの幼馴染。あと、新井さんって呼ばれ慣れてないから、深尋でいいよ」 「ははっ、わかった。じゃあ、僕のことも光太郎って呼んでね」 隼斗たちとは違って、こちらは和やかに話している。 先ほどの修羅場を知らない深尋だから、というのもあるだろう。すると、木南が再び深尋に質問する。 「葉山の大切な子って、もしかして深尋ちゃんのこと?」 いきなりド直球の質問に、さすがの市木もえっ?と驚いている。でも、天真爛漫の申し子は、そんなことでは動揺しない。 「ううんー違うよー。それは、隼斗の双子のお姉ちゃんのことだよー」 コイツいいやがった....と、隼斗は怒り心頭だ。 「へえ....藤堂くんって双子なんだ。しかも男女の。めずらしいね」 「そうだな。よく言われる」 「似てるの?」 男女の双子に興味を示す木南に、今度は市木が警戒する。 「番犬くんと明日香ちゃんは、全く似てないよっ。似ても似つかないというか、他人なんじゃというくらい.....」 「おいっ!明日香と俺は、昔っからそっくりの美男美女の双子で有名なんだ。いい加減なこと言うなっ!」 自分で自分のことを美男と言ってるあたり、隼斗もなかなか図々しい性格をしている。するとそれに興味を示した人がもう一人。 「そんなこと言われたら、そのお姉さんの顔見てみたいな」 奈緒美がお願いするも、それはさすがに本人の承諾なしには無理だということで、諦めてもらった。 芽衣は隼斗が双子であることは知っていたが、詳しい話は何も聞いたことがなかった。この場にいる深尋や、さっきから話題に上がっている僚のことも、全く知らなかった。 だから、少しでも隼斗のことを知りたくて聞いてみた。 「深尋さん、もしかして崎元くんとか、国分くんのことも知ってるの?」 芽衣に尋ねられると、深尋もなぜか少し警戒してしまう。でも、知らないとは言えないので、 「うん、知ってるよ。みんな友達だから」 とだけ答えた。 「ああ、そっか芽衣ちゃん、番犬くんの高校時代の元カノだっけ?だから竣くんとまこっちゃんのこと知ってるんだね~」 しれっと市木がバラす。というか、さきほどの深尋の発言で、ほぼバレているようなものだが。 「あ.....うん、もしかしてと思って.....」 と、芽衣は軽く流す。 深尋から「みんな友達」と聞いた芽衣は、自分が知らなかったからという疎外感からかもしれないが、隼斗を取り巻く小学校からの幼馴染たちには、目に見えないものでつながっているように感じてしまった。 「深尋ちゃんはいま、彼氏とかっているの?」 この木南も、市木に負けず劣らずグイグイくるタイプのようで、さっきから深尋を質問攻めにしている。 「いませんけど......」 深尋も深尋で、ここまで押しの強い男の人は初めてだったので、だんだん警戒心が出てきたのか、おどおどし始めた。 「木南、あんまりがっついてると深尋ちゃんがびっくりするよ~」 隼斗は、まさか市木からそんな言葉が出てくるとは思わず、(お前が言うな!)と目を大きくさせる。 「それにさ、この番犬くん以外にも、あと3人番犬がいるから要注意だよ」 と、木南に説明する。 「なぁ、市木がさっきから言ってるその番犬って、何?藤堂くんのあだ名じゃなかったの?」 木南は番犬の意味が分からず、市木にどういうこと?と聞いてくる。 「まあ簡単に言えば、深尋ちゃんや明日香ちゃんを守っている、4人の男たちのことだね~」 そう言われて隼斗は少し顔が赤くなり、深尋ははぁ?という顔をする。 「市木くん違うよー。番犬は明日香を守っている、隼斗と僚のことでしょう?」 すると市木は人差し指を横に振って、 「わかってないな~深尋ちゃんは。君もしっかり葉山たちに守られてるよ。それもがっちりと。この間のことがそうでしょう?」 この間のこと。深尋が暗い夜道で待ち伏せされていたカメラマンに、腕を掴まれた時のことだ。市木も少し話を聞いていたので、そのことを指摘したのだ。 市木に言われて初めて、そうだったんだと深尋は自覚する。 「深尋さんすごいね、守ってくれる人がたくさんいて」 奈緒美は嫌味ではなく、本心からそう思った。しかし芽衣は違った。 そんなに守ってくれる人がいるなら、隼斗くらいわたしに譲ってくれてもいいじゃないと、嫉妬してしまう。なんであの子ばっかり.....と。 「じゃあ、深尋ちゃんを口説こうと思ったら、藤堂くんの許可がいるの?」 木南がさらにド直球を投げてくる。 「.......え?」 「.......は?」 深尋も隼斗も唖然とする。市木は何が面白いのか、ニコニコ笑ってる。 「あ、あの.....光太郎くん、今日会ったばっかりで何言ってるの?」 「別に、会ったばかりとか関係なくない?僕は深尋ちゃんを気に入ったから、そう思っただけ」 「いや、でも......」 深尋は明日香の気持ちがようやくわかった。男の人に迫られるのが、こんなにも恥ずかしいこととは思わなかったからだ。 「別に。俺にも、僚にも許可を取る必要はないよ。ただ、大切な友達だから傷つけることはするな」 隼斗はそう言い切った。 「ということで、これからよろしくね。深尋ちゃん」 木南はニコッと深尋に笑いかける。 「なんか、光太郎くん.....市木くんみたい」 深尋は思わず本音が出てしまう。 「深尋ちゃん、市木みたいな遊び人と一緒にしてほしくないかな」 「どういう意味かな木南?」 「そのまんまだよ。僕は少なくとも、女の子をとっかえひっかえしない」 ゔっ....と市木は黙ってしまう。 「市木くん、明日香一筋じゃなかったの?」 「やだな、深尋ちゃん。俺はずーっと明日香ちゃんだけだよ?」 「嘘つけお前。僚にも言われてただろ」 「市木くんって、藤堂くんのお姉さんに手出してんの?」 「藤堂くんのお姉さんって、葉山のだろ?お前、葉山と争ってるのか?」 「ううん、光太郎くん。市木くんはとっくにフラレ.......」 「あーーっ‼UFOだーーーーっ‼」 なんだかんだいつもやり玉に挙がっている市木だが、それはそれで楽しそうだった。 そのあと深尋は、木南と連絡先を交換した。 ただの食事と聞いてきてみたら、合コンのようになったし、でも楽しかったからまあいいかと思った。 「深尋ちゃん、お家まで送るよ」 店を出ると、木南からそう言われて困ってしまった。 「そうそう、深尋ちゃんは木南に送ってもらいな。番犬くんは、芽衣ちゃんと話があるみたいだし」 「はあ⁉俺は話なんか....!」 隼斗は市木に反論したかったが、市木が隼斗の腕をグイっと引っ張り、みんなと少し離れる。 「あのさ番犬くん。芽衣ちゃんの話をちゃんと聞いてごらんよ。結局、ご飯を食べてる間、ほとんど話してないでしょ。芽衣ちゃんにも芽衣ちゃんの事情があるかもしれないんだからさ」 市木にめずらしく説得されて、隼斗は渋々芽衣を送っていくことにした。 2年と数か月ぶりに隼斗は芽衣と肩を並べて歩く。 しかし、2人の間に会話はない。 高校生の時、何度か芽衣を送るために通ったことのある道を、こうして再び2人で歩いている。 すると、家へと続く道の街灯の下で、芽衣が立ち止まる。それに気づいた隼斗も、立ち止まって振り返る。 「長瀬.....どうした?」 隼斗が声を掛けると、芽衣が顔を上げて隼斗を見つめる。 「あの.....もう、ここでいいよ.....」 「え.....?でも、まだ家は......」 「だって藤堂くん、わたしのことキライでしょ?これ以上は迷惑になるから.....」 まるで明日香みたいなことを言うなと、隼斗は思ってしまった。 「だからって、女の子をこんな暗い中1人にできないだろ。それに......前に話があるって言ってただろ.....」 そこで2人の間に沈黙が流れる。隼斗も、自分が言い出したものの、これ以上どうしたらいいのかわからない。 「................きなの....」 「.....え?」 芽衣が何か言っているが、声が小さく聞こえない。そのため、隼斗が一歩近づくと、涙をためた芽衣の目と隼斗の目がぶつかる。 「わたし、高校卒業してからもずっと、藤堂くんのことが好きなの。ずっと忘れられなくて.....今さらこんなこと言っても......藤堂くんを.....困らせるだけなのに......ごめんなさい.......」 芽衣は両手で顔を覆うと、そのままそこで泣いてしまった。 隼斗は女の子を泣かせてしまったと焦り、狼狽える。 明日香に泣かれるのは慣れている隼斗だが、その他の女の子相手だと、どうしていいかわからなくなってしまう。 「な....長瀬、泣くなよ。ごめん。ちゃんと話聞くから.....」 隼斗がそう言うと、芽衣はフルフルと首を振る。 「違う.....藤堂くんは、何も悪くない.....わたしが藤堂くんを.....傷つけたから.....怒って当然だよ.....なのに、まだ.....好きで.....ごめ......」 芽衣はそれ以上言葉を続けられなかった。 しばらくして、芽衣が落ち着いたのを見て、隼斗が話を切り出す。 「確かに、長瀬にあんなことをされて傷ついたよ。しかもその理由が恥ずかしかったからって言われて、なんだよそれって思った。俺は、自分が悪いことをしたと思って、ずっと悩んで苦しんだのに、そんなことでって思った」 「ふ........ごめんなさい.......」 芽衣はまた涙があふれてくる。すると隼斗が、左手の親指で芽衣の涙をグイっと拭う。 「俺の方こそごめん。あの時、もっと長瀬の様子を気にかけるべきだった。自分が長瀬と話をすることだけに固執して、結局遠ざけてしまっていたんだと思う。もう少し、余裕を持って接することが出来たらよかったのに、小さい男でごめんな」 そんなことを言われると、余計に涙があふれる。 あの時、お互い確かに好きだったのに。だから、体を重ねたのに。なんでこうなってしまったんだろう。過去に戻ってやり直したいと、何度も思った。 そして芽衣は、自分の涙を拭ってくれている隼斗の左手に、自分の手を重ねて言った。 「藤堂くん、わたし、あの時は恥ずかしくて言えなかったけど、これだけは言わせてほしいの.....」 「なにを......?」 芽衣は、自分の中の勇気を全部振り絞るかのように大きく息を吸って、 「わたし、藤堂くんとの初めての時、本当に気持ちよくて、幸せだったよ。ありがとう」 そう言って、まだ涙の残る目を細めてニコッと笑う。 その瞬間隼斗は、ぶわっと体中が熱くなり、顔が赤くなってしまった。 「なっ.....な.....なんでっ、そんなことっ......」 「だって本当のことだし、ちゃんと伝えないとって思って......」 「だからって、そんなっ.....直球は.....キツイ.....」 今度は隼斗が両手で顔を覆う。 『気持ちよかった』という言葉が、隼斗の頭の中を駆け巡る。 市木に「下手」と言われたことも、この一言ですべて吹き飛んだ。 「だけど、藤堂くんいいの?」 芽衣にそう言われると、隼斗はいったん落ち着きを取り戻し、何が?と聞いてみる。 「深尋さん、木南くんに狙われてるけど、大丈夫?」 「ん?ああ、別にそれはいいと思うけど.....なんで?」 隼斗は、芽衣がなぜ急に深尋のことを言うのかと、不思議に思った。 「だって、藤堂くんは深尋さんが好きなんだと思ったから.....」 「はあ⁉俺が深尋を⁉」 冗談だろ⁉と、顔に書けるくらいの勢いで隼斗が否定する。 「俺は深尋に、そんな感情を持ったことなんか1ミリもない。もちろん、幼馴染として、友達としては大事な存在ではあるけど、それ以上の気持ちは断じてない。それは深尋も同じだ」 「そうなの.....?」 「そう‼というか、それを深尋に言ったら、逆に俺がひどい目に合うと思うから、言わないでくれ....」 「え.....ひどい目って.....?」 芽衣は恐る恐る隼斗に聞いてみる。 「高級な焼肉とか、寿司を奢れだとか、ほしいものを買えとかそういうこと」 その答えを聞いて、芽衣はふふっと笑ってしまう。その笑顔は、隼斗が芽衣を好きだった時の笑顔と、何も変わらない笑顔だった。 「わかった、言わない」 芽衣は安心したのか、目は赤いままだが、自然な笑みが零れている。 隼斗はその顔を見て、過去の恋心が戻ってくる感覚に陥る。 芽衣の笑った時にできる右頬のえくぼとか、すこしたれ目なところとか、柔らかい唇の感触などが一気に頭の中に蘇る。 そして衝動的に、でも自然に、隼斗は芽衣を自分の腕の中に閉じ込める。 「あ....あの、藤堂くん....?」 芽衣は、何が起こったのかわからないまま、動揺してしまう。すると、隼斗は芽衣の右頬に自分の手を添えて、芽衣と目を合わせて告白する。 「長瀬.....俺たちもう一度やり直せるかな?」 「え......」 「なんか、いろいろ誤解があったし、行き違っていたから、やり直せたらと思ったんだけど.....」 そう言い終わらないうちに、また芽衣の目から涙があふれる。 「ご、ごめんっ....泣かせるつもりじゃ....」 「ありがとう藤堂くん.......もう一度、わたしと恋してくれませんか」 芽衣にまっすぐ見つめられた隼斗は、 「うん、こちらこそよろしく」 そう言って芽衣にキスをした。 最初は触れるだけのキスから、だんだんと深くなっていく。 それは隼斗と芽衣のわだかまりなど、一瞬で溶かすくらいに甘いキスだった。
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