6. GEMSTONEへ

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6. GEMSTONEへ

事務所見学の日の朝。6人の子供たちと保護者3人は車2台に分かれて事務所へ向かうことにした。 GEMSTONEがある場所は、風見市から車で1時間程の首都郊外にあった。 僚の父親が運転する車に、僚、誠、竣亮、竣亮の母が乗り、藤堂姉弟の母が運転する車に、明日香、隼斗、深尋が乗ることになった。 11:00に事務所で待ち合わせとなっているため、10:00前には出発することになっている。 「さあみんな!桜木純平に会いに出発よー!」 「お母さん、目的が変わってるし。恥ずかしいことはしないでね」 後部座席から明日香が母を諭す。 「わたしはお兄さんに会いたーい」 「深尋も目的が変わってるよ」 明日香は母と深尋の相手に大忙しだ。すると助手席から隼斗がぼやく。 「はーあ...俺も僚のお父さんの車に乗りたかったなー」 「仕方ないでしょ。あそこは定員ちょうどなんだから」 「竣亮のお母さんがこっちに乗ればいいだろー」 「.............」 そう言う隼斗に誰も返事が出来ないでいた。 「深尋、竣亮のお母さんちょっと苦手。こわそうだもん」 ぽつりと深尋がつぶやく。 「まあ確かに、教育ママって感じだしね。竣亮いくつも習い事させられてるもんね。塾以外はあまり続いてないけど」 竣亮は学校のある日は夕方ごろまでみんなで遊んだ後、弁当を持って学習塾や習い事に通っている。遊ぶなと言われるよりマシかもしれないが、それでも窮屈そうに見えてしまった。本人がそれについて不満を言ったわけではないが、学習塾以外のスイミング、空手、ピアノ、剣道、柔道などの習い事がことごとく長続きしないのは、竣亮なりの無言の抵抗なんだろうと感じていた。 そして約束の時間の10分前にGEMSTONEの本社ビルに到着した。 少し前に到着していた僚たちは、ビルの入り口の前で明日香たちを待っていた。すると、顔を合わせた親たちが一斉に挨拶をし始めた。 「葉山さん、国分さん、今日はお世話になります」 「いえいえ藤堂さんこちらこそ。昨日も僚がお昼をごちそうになったみたいで、ありがとうございます」 「竣亮の母です。藤堂さん、私の方こそお世話になっています。竣亮も隼斗くんとはいつも仲良くしてもらっているみたいで」 と、本音か建前かわからない攻防を繰り返す親たちを見て、 「大人ってめんどくせーーー」 と子供たちは思った。すると全員に聞こえるような声で 「ねー?行かないのー?」 と深尋が言う。その言葉によって大人たちの挨拶合戦は終了となった。 当然、深尋は明日香たちに向けて言ったのだが、これで挨拶合戦が終わることができたので、深尋にしては今回はいい働きをしてくれたとみんな思った。 GEMSTONEはかなり大きい芸能事務所らしく、5階建ての自社ビルまるごと1棟が事務所となっているらしい。 エントランスにある受付で今日の用件を伝えると、受付嬢に少し待つように言われる。その間、6人はこの会社のスケールの大きさに圧倒されていた。 「すっげー豪華だな。この天井ってガラス?鏡?」 「ソファーもふかふかだよー」 「なんか、いい匂いもするね」 と興奮冷めやらない。 そこへエントランスの奥にあるエレベーターから、見覚えのある長身の男性が歩いてきた。 「やあ君たち、GEMSTONEへようこそ。そしてお父様、お母様方初めまして。統括本部長の元木と申します。本日はわざわざご足労頂きありがとうございます」 元木が大人たちに向かって丁寧にお辞儀をする。すると僚の父親が一歩前に出て 「君が雄一郎先輩の息子さんか。学生結婚していたのは知っていたけど、こんな大きい息子さんがいたとは....私は僚の父の葉山洋輔と言います。お父さんには大学時代に大変世話になっていたにも関わらず、全然連絡が取れずにずっと気になっていたんです。今回僚を通じて縁が出来て、とてもうれしく思います」 と僚の父は嬉しそうに話す。 「こちらこそお役に立ててよかったです。父も懐かしい人に会えると喜んでおりました。お母様方も本日はよろしくお願いいたします」 そういうと元木は、母親2人にも目線を送った。 「まあ、こちらこそ、本日はよろしくお願いします。藤堂隼斗と明日香の母です」 「わたくしは国分竣亮の母でございます。よろしくお願いいたします」 母親2人も初対面のイケメンには丁寧に対応する。 「いやいや、皆様のお子様方は本当に聡明で賢いと思っていましたが、親御さんをみて納得いたしました」 「...............」 「...............」 そういう大人のやり取りを6人は実につまらなそうに見ていた。 「なぁ、あの兄ちゃん今までで一番うさん臭くないか」 隼斗がこそっと僚に耳打ちをする。 「あれが大人の世界なんだろ」 僚が達観したかのように言うと、そこでみんなはまた思った。 「大人ってめんどくせーーーーー!」 それから一行は、やっとエントランスから移動し、エレベーターで3階のフロアへ案内された。このビルの3階には、大小合わせて3つのダンスレッスン室があり、今日はその一番大きいレッスン室を見せてくれることになった。 レッスン室は廊下からも見えるようにガラス張りになっているが、二重ガラスになっているため防音対策はされている。室内はサイドと天井は白で統一されており、廊下の向かいにあたる壁は全面鏡張りになっている。 このような施設を見せられると、本当に芸能事務所の人にスカウトされたんだなと実感してしまう。 廊下には長椅子が壁沿いにズラッと並べられており、練習生の保護者らが何人か座っていた。 元木が一行を連れてそこにくると、練習生やその保護者らがざわつき始めた。 「元木さんが子供を連れているわ....」 「スカウト活動でずっと姿が見えなかったけど、まさか.....」 「え?あの子たち?」 など、こちらに聞こえるか聞こえないかの声で話している。 「明日香ー。めっちゃ見られてるよー」 「う、うん。なんか怖いね....」 そう言ってビクビクしていると、それに気づいた元木が 「明日香ちゃん、深尋ちゃん。大丈夫だよ」 とやさしく声を掛けてくる。そしてレッスン室のドアを開け、 「少しお待ちください」 というと中に入っていき、講師の先生らしき人と話している。 「なんか場違いなところに来たみたい」 「うん。こんなキレイなところ緊張するよ」 「おれ、河川敷の方が好きだな」 「確かに、誠が一番似合わないかもなー」 など好き勝手言ってる男の子4人。女の子2人はもはや萎縮しまくりで、さっきの保護者達から見えないように男の子の後ろに隠れてしまった。 程なくして元木が戻ってくると、 「葉山さん、藤堂さん、国分さんはこちらでかけてお待ちください。君たちは僕と一緒に中に入ろうか」 と言われ、逃げ道がない6人は仕方なく元木と一緒にレッスン室へ入っていった。
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