69. 告白の報酬

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69. 告白の報酬

「竣亮くん‼」 6人はそう呼ぶ声に驚く。声のする方を見ると、葉月が立っていた。 「葉月先輩......」 3か月前とほとんど同じシチュエーションだ。しかし、違うことが一つある。 それは、buddy全員が揃っていることだ。 明日香と深尋は、竣亮が口に出した葉月の存在を知らない。失恋した相手だなんて、思いもしないだろう。 しかし男子4人は竣亮から話を聞いていたので、葉月先輩という名前にすぐ誰のことだかわかってしまった。 「話があるの......」 猪突猛進の葉月らしく、竣亮の姿を確認したとたんに声を掛けたはいいものの、よく見ると、竣亮に見せてもらった動画の人達が一緒にいることに気づいた。 (つまり、この人達がbuddy......‼) それを自覚した瞬間、どうしようっ‼と焦る。 そんな1人で赤くなったり、青くなったりしている葉月を見て、僚が竣亮に声を掛ける。 「竣、話があるみたいだし、行って来たら?」 「でも僚くん、まだ僕、心の準備が.....」 「なんだよ竣亮、いつでも行けるように準備しとけよ」 「うぅ.....隼斗くん無理だよ.....」 竣亮はすっかり怖気づいてしまっていた。 葉月に一度フラれたあと、もう一度アタックすると決めていたのに、こうも突然本人が現れると、やっぱり躊躇してしまう。 その様子を見ていた葉月が、とんでもない提案をしてくる。 「竣亮くんがわたしと2人でイヤなら、皆さんもご一緒にいかがですか?」 そう言われて竣亮以外の5人は「え.....?」となり、肝心の竣亮まで、 「おねがいっ!みんな来てっ!」 と懇願してきた。 GEMSTONEの最寄り駅の、反対側の出入り口にあるカラオケボックスに、buddyの6人と葉月は来ていた。 別に歌いに来たわけではない。葉月と竣亮の話に、なぜか5人が巻き込まれていた。 しかもこのカラオケボックスは、僚と明日香にも因縁のある店だった。 部屋に入り、竣亮と葉月は向かい合わせに座る。そして、2人から少し距離をあけるようにして5人が座る。 「わたし、カラオケって初めてー」 状況をよくわかっていない深尋は、初めて入るカラオケボックスに興味津々だった。 「しっ!深尋。いまはそんな雰囲気でもないでしょ」 明日香が深尋を制止する。 しーんとなったところで、葉月が話を切り出す。 「竣亮くん、わたしねこの3か月間ずっと考えていたの」 「.........はい」 「まず、あなたを傷つけたことを謝るわ。本当にごめんなさい」 そう言って葉月は竣亮に深々と頭を下げる。 「そんなっ!先輩っ、頭を上げてくださいっ!」 竣亮は立ち上がって葉月の肩を掴み、頭を上げさせる。 「わたしのあの言い方は本当にダメだったと思うわ。急に言われて驚いたとしても、あれはダメね......」 葉月は自分の気持ちを整理して、反省したのだろう。竣亮はそんな葉月だからこそ、好意を抱いたのだ。その部分がまた見れたことが内心嬉しかった。 「僕の方こそ、その、buddyのことを隠していてごめんなさい.....」 竣亮のその言葉を、5人も黙って聞いている。 「竣亮くん、わたしはそれに関しては全然怒ってないわ。むしろ嬉しかったのよ。憧れのbuddyが、ずっとそばにいてくれたことが」 「......本当ですか?僕が、葉月先輩がファンだと知ってて近づいたんじゃないって、信じてくれますか?」 「ええ、信じているわ。あなたはそういう人じゃないもの。わたしも、人が信じられないからって、あんなにひどいことを言ってしまって、本当にごめんなさいね......」 竣亮と葉月の間のわだかまりが、1つ解消された。 「わたしね、あなたがbuddyの一員だと知った時、本当にこれ以上近づいてはいけないと思ったのよ」 「.......はい」 葉月はbuddyの熱狂的なファンであるが故、自分の信念を貫こうと、竣亮をわざと突き放すような言い方をした。 いまは、それをとても後悔していた。 「でも結局、それはあなたを傷つけただけだった。buddyが好きだから、そのために自分の信念を貫き通したはずなのに、そのbuddyの1人であるあなたを傷つけてしまったのよ.....」 葉月はbuddyを愛する気持ちと、自分の信念と、どちらが大切なのかずっと考えていた。 「buddyに救われて、buddyに生かされた私が、buddyを傷つけるなんて、浅はかな考えでしかなかったわ......そんな信念、捨ててしまおうって」 「先輩......」 あの時、竣亮は確かに傷ついた。葉月にはっきりと線引きされて、拒絶されたのだから。 「竣亮くん、わたしはね、あのつらい経験をしてから人を信じることが出来ないし、ましてや、恋愛なんか縁がないと思ってきたの。でもね、あなたに好きだと言われたあの日から、あなたに近づいてはいけないと思うのに、あなたのことばかり考えるようになっているの......あなたのことを傷つけたわたしがこんなことを言う資格がないのはわかっているけど、どうしてもあなたのことばかり考えてしまって......それも、buddyのメンバーではなく、国分竣亮としてのあなたのことが......」 口調はいつも通りの葉月の口調で、言いたいことをつらつらしゃべっている。でもその内容は、竣亮にとって嬉しくて鳥肌が立つ様な内容だった。 竣亮は再び立ち上がり、葉月のそばへ膝をついて座り込む。そして、葉月の両手を握り、下から葉月を見上げる。 「葉月先輩、僕は確かに傷ついてつらかったけど、いまの先輩の言葉で、つらかったことがすべて吹き飛んでいきました。今度は僕が、先輩のつらさを少しずつでも吹き飛ばしていきたいです。だから、これからもずっと僕のそばにいてくれませんか?」 竣亮のその言葉を聞いて、葉月の目が潤んでしまう。 「わたし、邪魔にならないかしら......」 「邪魔ではありません。僕には先輩が必要なんです」 「でも、あなたを独り占めするのは.....」 「buddyはみんなのものでも、国分竣亮は先輩だけのものです」 「本当にわたしなんかでいいの?」 「葉月先輩がいいんです。あと、なんかって言わないでください」 「わたし.......」 まだ言い訳をしようとする葉月に、竣亮がひとこと。 「先輩、さっきの返事は?」 葉月は少し目を泳がせた後、 「........あなたの....そばに、いたいわ.......」 と小さな声で返事をした。 その瞬間、それを見守っていた明日香と深尋がなぜか号泣している。 「ゔぅぅ......じゅん....ずけぇ....よがっ...たねぇ......」 「やだ、もう竣亮、いつの間にこんなに男らしくなったの....?」 号泣する深尋に「ほらよ」と、誠がティッシュを差し出す。 一方、僚は明日香の涙を親指の腹でくいっと拭い、優しく見つめる。 「はぁぁぁ.....あっちでも、こっちでもイチャイチャしやがって....!」 隼斗は右側に竣亮と葉月、左側に僚と明日香がおり、目のやり場に困ってしまう。 その5人の様子を見て、葉月はいまさら緊張する。 「はわわわわっ......わたしってば、buddyのみなさんの前で、とんでもない失態を犯してしまったわ......!」 「大丈夫ですよ先輩。みんな僕の友達なので、先輩もこれから仲良くしましょう?」 竣亮は当たり前のように言うが、葉月はそうもいかない。 「な、な、仲良く⁉ わたしが⁉ バ、バ、buddyと⁉」 明らかに動揺して震える葉月に、竣亮はなおも続ける。 「先輩、buddyではなく、僕らと仲良くするんです。いまの僕らはbuddyではなく、幼馴染の集まりですから」 しかし、葉月の耳にはあまり届いていないようだ。 そこで隼斗が口を出す。 「なぁ、竣亮。その先輩には荒療治が必要かもな」 「荒療治?」 「そう。例えば、1週間に1度は俺らと飯を食べるとか、とにかく積極的に俺らと関わってもらわねえと、いつまでたってもそんな調子だぜ?」 それを聞いて深尋も口を出してきた。 「そしたらさー、今度の女子会に先輩もご招待するよー」 「あっ、それいいね深尋。竣亮との話も聞きたいしねー?」 深尋の提案に明日香も便乗する。 「だそうです、先輩。いいですよね?」 「ふぇ?なにが.....?」 葉月は夢の中にいるような気分で、頭がフワフワしている。 「明日香と深尋が、先輩と友達になって、女子会にご招待するそうです。時間と場所が決まったら、僕が迎えに行きますね」 竣亮は葉月の返事も聞かず、女子会への参加を決定した。 いつも葉月のペースで付き合ってきたから、たまにはこういうことがあってもいいだろうと、竣亮は楽しくなっていた。 そして、そのあとは、せっかくカラオケに来たんだから、歌わないと損だよねということで、みんなで歌って、騒いで楽しんだ。 自分たちの曲は誰も歌わず、自分の好きな曲をたくさん歌った。 「先輩、楽しいですか?」 「ハイ、トッテモ.....」 葉月は、目の前でbuddyが歌っているのがいまだに信じられない。 そして、気づけばもう終わりの時間。最後は葉月のリクエストで締めることにした。 「先輩、みんな先輩と仲良くなりたくて、リクエストしてくれたら何でも歌ってくれるそうですよ。何がいいですか?」 竣亮にそう言われて葉月は迷わず、 『さよならいつか』が聞きたいと言った。 すると、先ほどまでわぁわぁ盛り上がっていた6人が、イントロが始まると急に真剣な顔になる。 Aメロの歌いだしは僚のソロからだ。そのあと隼斗に、Bメロになると、明日香、深尋となっていく。そしてサビを6人全員で歌う。 2番のAメロは誠からだ。そのあと竣亮、Bメロを僚と隼斗。サビを全員で歌っていく。Cメロを明日香と深尋で歌った後、大サビで竣亮が歌う。 『今は離れたあなたの心も 今は感じないぬくもりも 生きていればまた巡り合う あなたという奇跡に』 葉月はその瞬間、涙が溢れて止まらない。 ああ、本当に奇跡って起きるんだと、生きててよかったと、心の底から思った。国分竣亮という人と出会えて、わたしはなんて幸せ者だと、初めて抱く感情に心を震わせる。 最後に6人が歌い終わると、言葉にはできないほどの多幸感で胸がいっぱいだった。 「みなさん、ありがとう。わたしのために....本当にありがとう.....」 葉月がお礼を言うと、僚が葉月に話しかける。 「あの、葉月さん。これから竣亮のことよろしくお願いします。そして、buddyのことも」 「葉月さん、女子会、絶対来てくださいね」 明日香も最後まで葉月を誘う。 こうして葉月は、大学4年生にして友達が一気に5人増えた。 葉月の友達の人数としては、過去最高の人数なのは間違いない。
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