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7. ダンスレッスン
レッスン室には練習生が20人ほどいた。年代は中学生から高校生が中心となっていて、小学生と思われる子は4~5人くらいだ。
「君たちは今日は見学だけだから、なにも心配しなくても大丈夫だよ」
初めての場所で緊張しているだろうと、元木はこまめに声を掛けてくる。
その様子を練習生たちは、レッスン前の柔軟運動をしながら見ていた。
「元木さんが連れてきたみたいだよ....」
「小学生の割に、みんな整った顔してるね」
「なんか6人でずっとしゃべっているけど、友達なのかな?」
「えぇ...友達同士で、あそこまで顔が整っているのってなくない?」
など、珍しい見学者に練習生は興味津々だ。
そして6人はレッスンの邪魔にならないよう、ガラス面に沿うように置かれた椅子に座って見学することになった。ガラス越しに親たちがいるのが見える。
そこへ元木が一人の男性を連れてきた。
「みんな、紹介するね。うちのダンス専任講師のダン先生です。練習生からデビュー前の子たちまで彼が中心となって指導しているんだよ」
「初めましてダンです。よろしく。ダンスのダンで覚えやすいでしょ。あれ、もしかして緊張してる?」
ダン先生と紹介された先生は、物腰が柔らかく優しそうな先生だった。元木とはまた違ったタイプのイケメンだ。そしてイケメンに目がない深尋は、さっきまで萎縮していたくせにダン先生を見るなり
「最初は緊張してたけど、今は大丈夫だよー。私は新井深尋です。小学校5年生です」
と急に元気に、言われてもいないのに自己紹介をし始めた。さらに、
「はい次、明日香の番だよ」
などと言ってきた。それから深尋の策に嵌った5人は、ダン先生に自己紹介をする羽目になってしまった。
「藤堂明日香です。小学校5年生です」
「藤堂隼斗です。5年生です」
と藤堂姉弟が自己紹介すると、ダン先生が
「え?同じ5年生ってことは双子?」
と聞いてきた。確かに男女の双子は珍しいため、こういう反応はよくされる。2人には慣れっこだ。
「はい。私が姉で、隼斗が弟です」
「隼斗はねー明日香が大好きなんだよー」
「深尋っ、てめー.....!」
いつもの深尋と隼斗の口ゲンカが始まる。間に挟まれた明日香が
「いい加減にして!」
と2人を窘める。続いて、
「葉山僚です。同じく5年生です」
「国分竣亮です。5年生です」
「崎元誠。5年生」
とダン先生への自己紹介が終わった。その後ろで元木は6人の名前をちゃっかりメモしていた。
「みんな5年生で同級生なんだね」
「うん。クラスも一緒だよー」
「えぇ、クラスも一緒なんだ。ほんとに仲がいいんだね」
と驚かれる。でも5年生になってからこれが当たり前だった6人は、なんでびっくりするんだろう?と不思議だった。
「じゃあ、そろそろレッスンが始まるから、そこで見ていて」
というと、練習生が柔軟運動をしている鏡の前の方へ行ってしまった。
そして、練習生たちが3列に並ぶと、それまでざわついていたレッスン室がシーンと静かになって緊張感が走る。
ドンっという音で音楽が始まると、そこにいた20人がバッと同じ動きを始めた。それはまるで機械で操っているかの如く一糸乱れぬ動きで、20人の手足の動き、ステップの音、頭の振り方など、ロック調の激しい音楽らしくそのパフォーマンスも激しく、それでいて指先は繊細な動きをしていた。その場で動くだけではなく、隊形を変えたりもしている。それを中高校生に交じって、自分たちと同じくらいの子が対等に踊っているのを見て、6人は圧倒されてまった。
(なんだこれ、なんだこれ....ドキドキする)
(すごいかっこいい....)
みんな、一瞬で釘付けになった。
あんなに興味がないと言っていた誠でさえも、20人のダンスに見入っていた。その様子を見た元木は、
(感触がよさそうでよかった....)
とほっとしていた。内心、何を見ても興味を示してくれなかったらどうしようかと不安だった。
長いようで短かったダンスが終わると、練習生たちはハアハアと息が上がっていた。ここからは音楽なしで、細かい指導をしていくようだ。ダン先生がパンパンパンパンと手を叩いている。
元木は誠のそばに腰かけており、そこから覗き込むように6人の顔を見てみる。すると、2日前に名刺を渡した時と全然違う、元木が声を掛けるきっかけになったあのキラキラとした6人の顔になっていた。
(やっぱり、間違いない。この子たちは俺が見つけた原石だ)
元木はそう確信した。
それから30分ほど見学をした後、6人はダンスレッスン室を後にした。
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