PANIC in the CiTY

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 瞬きもせずに画面を見つめる。喉仏が勝手に上下するのを感じる。  画面の向こうには、男性が立っていた。ネオンライトに照らされて。今度は本物だ。男性にしては長いブロンドが風になびく。俺はそれを見るといつも、草原を颯爽と駆けるライオンを思い出す。アルテミス・ダランク。俺の憧れの人。悪を倒す、最強のサイキッカー。 『アルテミスがパニッカーを追い詰めています! パニッカーは抵抗しますが……なす術がありません!』  アルテミスは不敵に笑って、その細身の身体から溢れ出る超能力を華麗に操っていた。広場の噴水を操って、針のようなものを飛ばして抵抗するパニッカーの攻撃を、念動力でいなしながら、自身のオーラをビームのように放出して、パニッカーの逃げ場をなくしていく。これは、アルテミスが固有にもつ能力だ。かっこいい。やがて、パニッカーは完全に動きを封じられてしまった。 『アルテミスがパニッカーを捕らえました! いやぁ、鮮やかでしたねぇ』  パニッカーを押さえつけるアルテミスの姿を最後に、画面はスタジオに切り替わってしまった。  何か音を発し続けるパネルを前に、俺は戦うアルテミスの姿を何回も反芻した。強い敵にも颯爽と、堂々と立ち向かう、その細身の身体を、ライオンのたてがみのような髪を。天に与えられた特別な能力で、敵の抵抗を物ともせず、鮮やかに倒してしまう。やがて、その姿がいつのまにか、俺の身体に置き換えられていく。颯爽と敵に立ち向かう俺、鮮やかに悪を倒す俺、群衆から喝采を浴びる俺……。 「……馬鹿らし」  俺は勢いよくベッドに身を投げた。未だ甲高い声で喋る女性アナウンサーの声をどこかで受け取りながら、ゆっくりと目を閉じた。  真っ暗な狭い部屋で、ひとりきり。誰にも会わず、誰にも期待されず、誰にも愛されない、何の取り柄もない俺。光るネオンライトの下で輝くアルテミスとは、まるで逆の存在じゃないか。  俺も何か、特別な力に目覚めたら……。  なんて、馬鹿か俺は。
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