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ペチペチと頬を叩かれる感触がする。
なんだよ。まだ寝かせてくれよ。
俺はその手から逃れるように寝返りを打った。
「ねぇ、起きてよ」
うるさいな。頬を叩くに飽き足らず、俺を心地よい眠りの世界から引き戻そうとする奴の顔を見てやろうと目を開けて——
「……は?」
一気に微睡から意識が覚醒する。目の前に、少年がいた。俺を覗き込んでる。随分と愛らしい顔立ちだ。俺よりも少し年下くらいか。……いやそもそも、こいつは誰だ?
「な、だ、誰だよ!?」
「ボクかい? ボクは超能力者だよ」
「……は?」
超能力者? こんなガキが?
「同じく超能力に目覚めたキミを、ボクの仲間に勧誘しにきたんだ」
「…………はぁ?」
今度こそ言葉を失った。なんだ、この夢は? せっかく夢ならば、アルテミスに出てきてほしかった。超能力に目覚めたって、この俺が? そんなわけがない。
「何言ってんだ。俺はパンピーだぜ」
「気が付いてないだけさ。キミは極めて強力な超能力に目覚めた……はずだ」
「…………はず?」
「いやぁ、実はボクにもキミの能力はわからなくてね、能力者ってことはわかるんだけど」
「……おおん」
俺は呆れてしまった。なんだこいつは。まあ、夢だしな。
「じゃあ、お前の能力はなんなんだ?」
俺の脳みそは、この少年にどんな能力を与えたのか。夢らしい、非現実的な能力であればいいと思う。
「ふふん、まあ教えてあげてもいいだろう。ボクは……何かしらの能力を持つ人がどこにいるかわかるんだよ」
「へえ、……え、それだけ?」
「え、うん。それだけ」
俺ははふっと息をこぼした。まあ、実際、超能力と言ってもそんなものだよな。アルテミスみたいなのが特別なわけで。にしても、夢の割にはリアル路線行ってるな。
「それで? 仲間になってくれるのかい? ボクの能力も明かしたわけだし」
「仲間って言っても、なんの仲間か説明してもらってないんだが?」
「あ、そうだったね」
少年は改まった様子で、こほんと一息ついた。そして、俺に手を差し出す。月明かりに照らされて、少年の煌めいた瞳がやけに眩くて、
「ボクと一緒に……軍特殊部隊と闘おうよ!」
「…………おおう」
やばい、こいつやばい奴だ。いや、夢なら、俺の方がやばいのか。俺、実は特殊部隊に刃向かいたい願望でもあるのか?
「……まあ、考えとくわ」
俺はそれだけ言うと、再び布団にくるまった。もう話すことはない、と少年に背を向けて。なんなら俺は、もし超能力に目覚めたのなら、特殊部隊に入りたいし。
「本当かい!? じゃあ、まあ誘いにくるからね! 困ったらボクを呼んで!」
少年は思ってよりも引き下がらずに、窓に足をかけて去っていった。うわーという叫び声と共に、着地に失敗したような音がしたが、知らないふりで目を閉じた。
変な夢だったな。微睡の中で、少年の煌めく瞳だけが揺らめいて映し出され、やがてそれも消えていった。
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