PANIC in the CiTY

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「……ほう、やはり、能力が身を守るか」  アルテミスの声が聞こえる。俺は、生きてる?  俺は無意識に強く瞑っていたまなこを恐る恐る開けた。 「……えっ!」  俺の瞼のほんの数ミリ前に、それはあった。金属の塊。空中に浮かんでいる。これは、弾丸? アルテミスが撃った? もしかして、俺がやったのか? 「そうじゃなくちゃな。じゃあ、これならどうだ?」  間伐入れず、アルテミスが俺の目の前に手をかざした。途端、部屋に突風が湧き起こった。 「……っっ」  本が、食器が、俺の部屋にあるありとあらゆるものが、舞う。俺の方へ、凄いスピードで突っ込んでくる。息ができない。訳がわからない。どうして。なんで。アルテミスが。  全く状況についていけない頭を置いて、俺の身体は、能力は勝手に動く。俺に向かってくる全ての物を、止めようとする。 「……へぇ、大したものだ。発現したばかりで、これほど使いこなせるとはな」  気がついたら、突風は止んでいた。俺の小さな世界を構築したありとあらゆる物たちが、床に転がっている。  一人、アルテミスだけが立っていた。俺と向かい合って、俺を見ている。あのライオンのたてがみのようなブロンドが靡いている。ずっとずっと、憧れていたあの人。 「な、なんで……。なんでこんなこと……」  絞り出すように口にした。いや、もはや無意識だった。口が勝手に動いた。  アルテミスは笑った。ふっと冷たく。まるで凍った空気を吐き出すように。 「……実はな、今の特殊部隊は人気商売で、常に人員余剰なのさ。だから、新しい芽は早めに摘んで、ついでに派手に戦って手柄を増やさなくちゃいけない」 「え……」 「なぁ、考えてもみろよ。パニッカーの罪状は、いつだって器物損壊と傷害のみ。それも、僕たちから逃げているときのものばかりだとは、思わないか?」  訳がわからなかった。俺にわかるのは、憧れの人が目の前に立っているのに、ずっと身体が震えて、それは歓喜からじゃなくて、恐怖からだってことだけで。  きっとこれは、悪い夢だ。だって、そうじゃないとおかしい。もしこれが現実だったら、俺が憧れていた弱気を助け強気を挫くヒーローが、俺が夢みてた全てが、粉々に……。 「だから、逃げてくれよ。派手にやらないといけないんだよ。もう、本局にも連絡を入れてる。放送局のやつらも駆けつけてんだ」 「……」 「おいおい、ショックで動けないってか? 困ったな……」  もう、お願いだから。早くこんな悪夢は醒めてくれ。 「おい、これ当たったら死ぬぞ。逃げろよ」  アルテミスが再び、俺に向けて手をかざした。でも、さっきまでとは全然違う。全身の毛が逆立つようだ。アルテミスの手のひらを中心に渦巻く何かが、恐ろしい何かが、俺を……。  あ、死ぬ。  死を覚悟した瞬間、誰かが後ろから俺を押した。温かい手だった。  ドォォォッッッ  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加