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「……ほう、やはり、能力が身を守るか」
アルテミスの声が聞こえる。俺は、生きてる?
俺は無意識に強く瞑っていたまなこを恐る恐る開けた。
「……えっ!」
俺の瞼のほんの数ミリ前に、それはあった。金属の塊。空中に浮かんでいる。これは、弾丸? アルテミスが撃った? もしかして、俺がやったのか?
「そうじゃなくちゃな。じゃあ、これならどうだ?」
間伐入れず、アルテミスが俺の目の前に手をかざした。途端、部屋に突風が湧き起こった。
「……っっ」
本が、食器が、俺の部屋にあるありとあらゆるものが、舞う。俺の方へ、凄いスピードで突っ込んでくる。息ができない。訳がわからない。どうして。なんで。アルテミスが。
全く状況についていけない頭を置いて、俺の身体は、能力は勝手に動く。俺に向かってくる全ての物を、止めようとする。
「……へぇ、大したものだ。発現したばかりで、これほど使いこなせるとはな」
気がついたら、突風は止んでいた。俺の小さな世界を構築したありとあらゆる物たちが、床に転がっている。
一人、アルテミスだけが立っていた。俺と向かい合って、俺を見ている。あのライオンのたてがみのようなブロンドが靡いている。ずっとずっと、憧れていたあの人。
「な、なんで……。なんでこんなこと……」
絞り出すように口にした。いや、もはや無意識だった。口が勝手に動いた。
アルテミスは笑った。ふっと冷たく。まるで凍った空気を吐き出すように。
「……実はな、今の特殊部隊は人気商売で、常に人員余剰なのさ。だから、新しい芽は早めに摘んで、ついでに派手に戦って手柄を増やさなくちゃいけない」
「え……」
「なぁ、考えてもみろよ。パニッカーの罪状は、いつだって器物損壊と傷害のみ。それも、僕たちから逃げているときのものばかりだとは、思わないか?」
訳がわからなかった。俺にわかるのは、憧れの人が目の前に立っているのに、ずっと身体が震えて、それは歓喜からじゃなくて、恐怖からだってことだけで。
きっとこれは、悪い夢だ。だって、そうじゃないとおかしい。もしこれが現実だったら、俺が憧れていた弱気を助け強気を挫くヒーローが、俺が夢みてた全てが、粉々に……。
「だから、逃げてくれよ。派手にやらないといけないんだよ。もう、本局にも連絡を入れてる。放送局のやつらも駆けつけてんだ」
「……」
「おいおい、ショックで動けないってか? 困ったな……」
もう、お願いだから。早くこんな悪夢は醒めてくれ。
「おい、これ当たったら死ぬぞ。逃げろよ」
アルテミスが再び、俺に向けて手をかざした。でも、さっきまでとは全然違う。全身の毛が逆立つようだ。アルテミスの手のひらを中心に渦巻く何かが、恐ろしい何かが、俺を……。
あ、死ぬ。
死を覚悟した瞬間、誰かが後ろから俺を押した。温かい手だった。
ドォォォッッッ
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