PANIC in the CiTY

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「……何者だ、貴様」  アルテミスの冷たい声で、我に帰る。まだ、俺はこの世界にいる。生きてる…? 「名乗る必要もないさ」  あの声だった。あの、声変わりのすんだ男の、それでいてどこかしたったらずで愛らしい、あの。  窓からたっと降り立つ影が見えた。この影が窓の外から俺を押したのだ。あの少年だ。 「……確かにどうでもいいな。邪魔する人間は、公務執行妨害で処刑だ」  言うが早いか、アルテミスは少年に手をかざした。来る。あのビームが、また。  強いオーラの渦がアルテミスの手のひらに集まる。俺は何も動けない。少年が死んでしまう。 「死ね!」  ドォォォッッッ 「……っっっ」  瞬間俺は、とんでもないものを見た。アルテミスが後ろに倒れている。目で追えないほどの速さのアルテミスの攻撃を避けて、いつのまにか少年はアルテミスに近づき、そっと胸を押したのだ。  俺は自分の目を疑った。そんなことが、ありえるのか。 「逃げよう……!」  呆然とする俺の手を無理矢理取り、少年が駆ける。今度は玄関から出て、走る。俺はついていくのにやっとだ。 「ボクは逃げの天才だから、大丈夫」  俺の手を引いて駆けながら、やけに自信ありげな笑みで、少年は言う。  この少年の能力、そうだった。能力者がどこにいるかわかる能力、確かに逃げには最適の能力だ。しかし…… 「……アルテミスは自分のオーラを放射できる。あらゆる形態で。しかも、その放出の応用で、移動もめちゃくちゃ……」  速い。口にはできなかった。少年が急に立ち止まって、そのコンマ数秒後に、少年の目の前、ちょうど人一人通れそうなくらいの路地を、アルテミスのビームが駆けたから。 「み、みつかっ……!」 「ってないよ。大丈夫」  嘘だ、そんなの。少年は俺の手を引いたまま、早足で路地を通り過ぎようとする。無理だ、無謀だ。きっと、路地にはアルテミスが……。  俺はきゅっと目を強く瞑った。逃げないと死ぬのだ、どちらにせよ。だったら、行くしかない。 「ほうら、大丈夫でしょ?」  あっけないほど何もなく路地を渡り終えた。どうして。なぜ、この少年は、アルテミスが俺たちを待ち伏せていないと知っていたのだ。 「なんで、無事だって……」 「ボクの能力だよ。ボクは、超能力者の現在の場所だけじゃない、過去から未来まで、どの時間軸でも本人のいる場所、そして能力の発動する場所も、全て知ってるんだ」 「……っ」  俺は息を呑んだ。息を呑むことしかできなかった。アルテミスを相手取ったあの大立ち回りには、こんなカラクリがあったのだ。  これは、未来予知だ。それも、極めて高度な。先ほどまでの、自信満々な態度も頷けると言うものだ。 「言ったでしょ? 逃げの天才だって」  確かにそうだ。恐怖のあまり縮こまっていた心臓が再び鳴り始めるのを聞いた。こいつと一緒なら、もしかしたら。  
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