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2、涼音に首を絞められる
高校生になってから、僕は彼女と――山城涼音というのだけど――もう一度友達になった。
小学生高学年の頃、僕と涼音はクラスメートだった。彼女は一見すると善良な感じがする女の子だった。ちょっと周りより背が高くて髪が長く、水色のランドセルを背負って大人っぽい髪飾りをつけていた。
でも本当はとてもプライドが高くて、運動や勉強で誰かに負けることを極端に嫌がっていた。水酸化ナトリウムの化学式だったり、連立二次方程式の解き方だったり、中学の内容を先取りする塾で習った内容をどれくらい知っているかについて、クラス内の頭の良い男子と言い争いをしたこともあった。
当時の僕はませた彼女に対して、母親に感じるような包容力を見出していた。同級生に母性を感じるのはやや屈辱的で、その感触は不気味だった。だから、ひょっとすると涼音は僕の心を籠絡して殺害を試みているスパイなんじゃないか、なんていうバカな妄想を真剣に繰り広げたこともある。
その妄想は全くの無根拠ではなかった。ほとばしる夏を冷ますような秋雨の朝に、校庭の小屋でうさぎが死んだ。僕と涼音と茶髪の女の子が飼育係だった。特に会話をすることもなく小屋にやってきて、傘を閉じて水滴を払っていると、茶髪が小さく息を引っ込めるような声を出した。彼女の視線の先には、餌入れの中でひっくり返っている茶色いうさぎがいた。
茶髪は傘を放り出し、うさぎのそばで膝と手を地につけて泣き出した。床には餌や糞、泥なんかが散乱していたけど彼女は歯牙にも掛けない様子だった。涼音はすぐさま彼女に駆け寄り、頭を撫でながら慰めの言葉をかけた。
でも僕は見逃さなかった。涼音の靴はおろしたての新品で、茶髪に駆け寄るときなんか、床の汚れていない部分をまるで飛石のように選びながら足をすすめたってことを。茶髪の傘はうさぎ小屋の床で泥まみれになっているのに、涼音の傘はご丁寧にバンドでしっかりまとめられていて、小屋の網にひっかけてあった。
悲しいね、私も悲しいよ。先生に知らせよう、きっと埋葬してくれるよ。そんな見せかけの優しさを振り撒く涼音を見て、僕は興奮した。心臓の隅々から温泉が湧き上がるような感じがした。彼女の嘘を暴く機会を得たことが、とても喜ばしかった。
当然、僕だってうさぎが死んだことは悲しかった。動物は触れないけど見ている分には可愛らしいし。でも僕は茶髪を慰める涼音のそばに立って、
「本当のところは、どうでもいいんじゃない?」
次の瞬間、涼音は僕の首を両手で絞めていた。息ができないというほどではないが、彼女の手の形と冷たさがはっきりと伝わってきた。彼女と目が合う。午前0時の長針と短針のように。彼女の眉は吊り上がり、頬や額に透明な露が散りばめられていた。
「どうしてそんなこと言うの?」
「......冗談だよ」
「次から許さないから」
涼音は僕が目で頷くのを待ってから、荒々しく手を離した。僕の首には依然として彼女の手の感覚が残っていた。首の感覚が敏感になっていて、空気の流れを鋭く感じ取れたし、頑張ったら首で音が聞こえるんじゃないかと思うくらいだった。
次から許さないから......。その言葉は頭の中で反響し続け、僕の嗜虐心をくすぐった。もっとそういうことを言ってやろう、なんて思ったり。
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