山賊の入城

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 そこはエリザベスが6歳の頃まで過ごしていた部屋だった。10年前と寸分変わらぬ状態のまま綺麗に保たれていた。  エリザベスは両親の思惑を読み取り、懐柔されまいとして出ていこうとしかけたが、懐かしさに心を鎮められて部屋に留まった。  暫くの間、10年前の少女に戻って、当時のお気に入りのおもちゃや人形、調度品などを手にとって眺めていた。  クローゼットを開けると、当時のお気に入りの洋服たちがそのまま綺麗に残されており、その横に現在のエリザベスの体型に合わせた衣服が並んでいた。  泥とバンパの血で汚れ、着古して()えた匂いを放つ現在の服とそれらを見比べて、エリザベスは潔く身繕いをすることにした。  エリザベスが着替えを終えてバスルームから出てくると、そこには10年間一度も口にしていなかった、好物の焼き菓子と紅茶が置かれていた。  王女として入城したのではなく、あくまでも山賊として捕らえられているのだから、その姿勢は崩すまいと頑なに決意していたエリザベスだが、目と鼻から入ってくるそれらの気配がエリザベスの鼻腔と胃袋を刺激し、5分と耐えぬうちに貪るようにして食べ始めた。
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