王女の護衛

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 エリザベスは人目を避けて森の近くの牧場へ散歩に来ていた。 「本当にどこまでも付いてくる気なの?」  エリザベスは振り返って大声を出した。 「はい」  エリザベスが立ち止まったので、2メートル程後ろを付いてきていたクリストファーも合わせて立ち止まった。 「あなたなんて私の護衛になるわけないじゃない」  エリザベスはクリストファーを睨みつける。  クリストファーはその言葉に心外だという反応を見せ、片眉を上げた。 「信じてないみたいね。それならば」  言い終わらぬうちにエリザベスはクリストファーに挑みかかった。  王女からの突然の攻撃に一瞬たじろんだクリストファーだが、国一番の腕前で、国王軍のエリートである騎士団の長を務めているだけあって、その反応は素早かった。  エリザベスの手が触れるが早いかクリストファーはその攻撃を瞬時にかわし、エリザベスの背後をとろうと回り込んだ。  何度となくこなしてきた動作だが、今回は違っていた。  エリザベスから目を離す隙などなかったし、僅か2秒の行動でこんなことはあり得るはずがない。  エリザベスは消えていたのだ。  クリストファーは身構えて辺りを伺うと、エリザベスは5メートルも離れた地点で優雅に手を振っていた。 「遅すぎるわ」  エリザベスは、高貴な者にしかできない、品のある微笑を浮かべてそう言った。 「今日のドレスは気に入っているの。余計な埃がついたら大変だもの。まともにやり合うのは明日にすることにするわ」  クリストファーは生まれて初めて冷や汗をかいていた。
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