王女の護衛

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「ほら、そういう反応は良くないわ」  エリザベスからの何度目かの挑発に、とうとうクリストファーは乗った。  クリストファーはパワーも圧倒的だが、スピードならば誰にも負けない自信があった。そのため、戦闘の際には一瞬で相手の次の手を読み切り、それに対する対応も瞬時に計算することができる。0コンマ数秒のタイムラグはあるが、その微量の差を気にする必要に迫られたことはこれまでに一度もなかった。  しかし、今目の前の相手にはその差が致命的だ。  クリストファーは思考することを止め、自身の本能的な判断に身を委ねた。  それは一瞬だった。  エリザベスの背後に回ると、彼女の頸椎にめがけて手刀を振り下ろした。  エリザベスは反応したが、すんでのところで間に合わなかった。  エリザベスは前に伏した。  クリストファーは息を荒げながら、倒れ伏したエリザベスを見下ろしている。  勝てた。  そう余韻に浸ったのは一瞬で、護衛のくせにその庇護の対象を失神させてしまったこと、しかも相手は王女様だということを思い出し、クリストファーは青ざめた。  必死ではあったが殺意はなかったためか、エリザベスも反応できていたからか、倒れていたのは5秒にも満たず、エリザベスはすぐに起き上がった。 「ふん。これくらいやってもらわなきゃ護衛として困るわ」  そう言い捨てるとクリストファーを一瞥し、エリザベスは身を翻して歩き去った。
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