52人が本棚に入れています
本棚に追加
「エリザベス様、本日は散歩に向かわれないのですか」
エリザベスが日課にしている散歩兼訓練の時間になり、クリストファーはお供するべくエリザベスの部屋へと迎えに来たところだった。
「そうよ。これを見てわからない? 今日はあなたとお喋りでもしようかと思って」
エリザベスはテーブルに広げたお茶と焼き菓子を手で示しながら返事を返した。
「お喋りですか?」
力を鍛えることしかしてこなかったクリストファーは、そんな時間の使い方があるなんて想像したこともない。
「そこに座りなさい」
自分の対面の席を指差してエリザベスは命令した。
クリストファーは素直に従うと、椅子に腰を下ろした。
「作法なんていいから、まずはそのお茶を飲んで菓子を味わいなさい」
クリストファーは言われるがまま、触れたら割れてしまいそうなほど繊細な造りのカップを、その無骨な手で持った。
大柄なクリストファーが持つカップはミニチュアのようだったが、おそるおそると啜る姿は可愛らしい。
エリザベスはそれを見て思わず笑みを漏らした。
「ねぇクリストファー、あなた結婚はしているの?」
エリザベスは焼き菓子を頬張りながら早速お喋りを始めた。
意表を突く質問にクリストファーはお茶を吹き出した。
「あら、もったいない」
エリザベスはすんでのところで飛沫を避けて、済ました調子でそう言った。
「してないでしょう。見た目は悪くないけど無骨すぎるもの。もっとこう柔軟さみたいな、女性の手をとって違和感がないようにできないものかしら」
最初のコメントを投稿しよう!