王女の護衛

14/14
前へ
/52ページ
次へ
 顔が熱くなるのを感じた。触れている部分が妙に温かく、クリストファーの匂いに酔いそうだった。  クリストファーの方も同様に緊張して動けなくなっていた。手を離せば済むことなのに、そうしてしまうと女性に触れたことが強調されてしまうかのように感じられたからだ。  身体に惹き寄せたエリザベスの金色の髪から、花のような香しい匂いが鼻腔を刺激している。  自分をあんなにも痛めつけ、重い殴打を繰り出しているエリザベスの腕は、ほっそりとして引き締まり、白くスベスベとした絹のような手触りが艶めかしい。  数秒と経たずに二人は慌てて離れたが、互いに意識してしまって言葉をかけることができないでいた。  お互いに顔を見られまいとして俯き、無言のまま立ちすくんだあと、クリストファーは沈黙を破った。 「ご馳走様でした。ありがとうございました」  そう言うと、エリザベスの方を一度も見ずに足早に退室した。  エリザベスはドアの閉まる音を聞いてようやく緊張を緩めると、大きなため息をついた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加