王女と騎士

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 エリザベスの問いにすぐには答えられず、クリストファーは躊躇った。  その様子を見ていたエリザベスは、やはりその場しのぎの出まかせであったのかと落胆し、会話をやめることにした。 「とにかく、早く戻りましょう」  エリザベスの諦念に気がついたクリストファーは、意を決して話し始めた。 「エリザベス様、あなたの価値は、あなたの存在そのものです。気高く、力強く、民を導く器のある方です。技能とは、おまけのようなものです。そのお人柄そのものがあなたの素晴らしいところです。その技能が目覚める前から、あなたをお慕いしてお守りしていた山賊共を思い出してください。技能のことを知っていたのはバンパだけだったのでしょう? 他の者はそんなこと考えてもいなかったはずです」  クリストファーが間を溜め、言葉を選びながらも必死にエリザベスに伝えようとした。  エリザベスは、クリストファーの言葉以上に、その想いにも心を打たれた。 「あなたは自分を見誤っております。技能なんて、必要ないくらいです。あなたは戦わなくてもいい。ただ生きてくださっているだけで十分です」  クリストファーの言葉に、愛していると言われた以上に愛情を感じたが、エリザベスはそう感じたことが相手に見つからないように言葉を選んで返した。 「私は山賊でしたが、これからは王女であり、戦士としてこの国を守ります。あなたと共にね」  クリストファーは、エリザベスの目元に光るものを見たが、それを見なかったこととして前へ向き直り、街へ向かうスピードを上げた。
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