王女と騎士

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 敵が降伏の旗をあげると、全ての戦いは終わりを告げた。  幸いにもエリザベスとクリストファーが帰還してからの自軍の被害は最小限に抑えることができた。二人も致命傷になるような大きな怪我を負うことはなかった。 「エリザベス」 「リズ」  娘の帰還と自軍の勝利のために城から出てきた、王と王妃が娘に駆け寄った。 「お父様、お母様」  エリザベスは疲労と痛みを隠しながら、高揚して赤味の差した頬に笑顔を添えた。  三人は10年ぶりに再会したときのように抱き合い、家族の無事と王国の無事に安堵の涙を浮かべた。  王たちが自軍の兵士たちに労いの言葉をかけると言って立ち去ると、クリストファーが近づいてきた。 「この勝利はあなたのお影です。あなたが帰ってきたから成せたものです」  クリストファーはエリザベスを正面から見据えて言った。 「私がいなければ戦争にならなかったかもしれなくてよ?」  エリザベスが悲哀を帯びた微笑を浮かべて、クリストファーからの視線を避けた。 「そんなことはありません。敵軍とは数年の間、政治的にも睨み合いの状態が続いておりました。いつ戦争になるかの瀬戸際だったのです。あなたがきっかけになったかもしれない、それは否定いたしませんが、あなたのご帰還がなくとも、近いうちに戦争になっておりました」 「そう」  言葉には出さなかったが、エリザベスは心の中で安堵し、そしてそれを伝えてくれたクリストファーに感謝をした。
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