王女と騎士

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 緊張が解けたからか、勝利に終わった安堵からか、エリザベスの目に再び涙がこみ上げた。  エリザベスはそれをクリストファーに見られまいとして、視線を避けたまま険しい表情を維持していた。  しかし、目の前にいる男は愛する男で、自分を愛している男でもあるのだということを思い出すと、見られまいとして自分の感情を抑える必要はないのだと考え至った。  「クリストファー」  涙で潤んだ瞳をクリストファーに向け、彼の視線を真正面から受け止めた。  泣いている愛する王女に気がついて、心配そうな表情を浮かべたクリストファーが答える。 「はい、エリザベス様」 「女性に興味はないと申しておりましたね。騎士に家族は必要ないとも」  エリザベスは瞳を涙で濡らしたまま、悪戯をしかけた子供のような笑顔を見せた。 「あ、あれは」  クリストファーが返答に詰まることは珍しい。それが可笑しくてエリザベスは笑い声をあげた。 「あれは、あなたに出会うまでのことです」  クリストファーはそう言うと、エリザベスを抱き寄せて口づけを交わした。
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