扉を開く

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扉を開く

「扉が見つかった?」  クリムさんとの共同生活が始まり、ちょうど一週間が経った。  思いのほかいい生活で、なにより快適だ。  クリムさんがいなかったら、私の生活は苦労の連続だっただろう。  というか、この一週間をのりきれていたかもあやしい。    何においても見えないというのはストレスだし、制限が多い。  前世の記憶があるせいか不便さにイライラすることも多く、元の世界へ帰りたい気持ちは日々強くなっていた。 「どこにあったの?」 「裏山の中腹ですね。不自然な色をした扉があらわれて目を疑いましたよ」 「きっとそれだよ! 行こう」    帰れるかもしれないという期待が私を急かす。  けれどクリムさんはあまり気が進まない様子だ。 「前にも言いましたが、扉をくぐる時に死んだなら、今度も同じかもしれないですよ?」 「そしたらまた転生するよ。次は元の世界に。目だって次は見えるかも」 「…………能天気ですね」 「考えるだけで出る答えじゃないもん!」  クリムさんの大きなため息が聞こえた。  真面目な彼はよくため息をつくけれど、私のことは否定しない。  この一週間でそれは徹底していた。    なんだかんだ、この人は私のやりたいようにさせてくれる。  何の見返りもないのに。  かといって私を騙すような雰囲気もない。不思議な人だと思う。  もう一度、ため息が聞こえる。  今回は吸う時間の長い、何かを決意するときの息遣いだ。 「ミラさん。扉が本物だとして、本当に開けますか。世界が不幸になるかもしれないのに」 「ええ? そんな大きなこと考える余裕はないよ。私は自分が幸せになるために行動するんだから」 「あなたの幸せにも、通じなかったとしたら?」 「何が幸せかは私が決める。それに最初は不幸だと思っても、あとからは分からないでしょ」 「……分かりました」  手を握っていいか聞かれて大きく頷く。  少し冷たい大きく骨ばった手は、私の手を握ると玄関へ向かった。
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