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「これは?」
「地球全部を網羅するくらい、広範囲に作用する眠り薬」
「用意してくれたの?」
「ここまで巻き込んだのは俺のエゴだしな。寝て苦しまないうちに滅亡して、転生できるように。あとミラの罪悪感が少しでも減るように」
「ありがとう」
口調はもう完全に創始だけど、こういう気配りはさっきまでのクリムさんだ。
創始が転生する前のクリムさんと会うことがなくて良かったと考えたところで、ふと、気づいた。
「あのさ、繰り返しを終わらせたら、元祖クリムさんも復活するんじゃない?」
「元祖って。俺がめでたくソウシの人生に戻れたら、そうかもね」
「ヤバいじゃん! また世界や異世界を征服しようとするかも」
「そう。だから昨日のうちに手を打ってきた。研究機材を壊して材料も焼き捨てて、国の中央に匿名で通報もした。だからもうすぐ憲兵たちが俺を捕まえにくるよ。世界征服を企んだ重罪人として」
そこまで周到に準備して、私をここまで案内したんだ。
「本当はミラが行った後にこの扉も壊したかったけど、俺の力じゃ難しそうだ。憲兵たちに差押えはされるだろうけど。……ってここまでしても、もしかしたら意味はないかもしれない。クリムが復活したらまた悪事を始めるかもしれない。でも、やらないよりマシだ」
創始の声に、たくさんの足音が重なって聞こえてきた。
扉の方からは鍵をいじる音がする。
ふ、と企むような声がした。こんな時、クリムさんはどんな表情をするか分からないけれど、創始なら想像できる。
狙いを定めるように目を細めて口角をあげながら微笑む、ちょっと悪い顔だ。
「どっちもお迎えか。こっちも混乱するだろうなー主に魔法省が。どっちの世界もパニックだ」
足音と扉の取っ手を回す音が、近く大きくなっていく。
手探りで創始を探すと、両手を握ってくれた。家を出る前とは違って、今度はあたたかい。
「創始……ちゃんとまた、会えるよね」
「絶対。っていうか俺、十代のノリについていけるかな」
「余裕でしょ」
「なんだと」
二人で同時に笑い合う。それだけで、ちゃんと再会できるんだと信じることができた。
「じゃあ、またね!」
扉が開いたのを合図に、私たちは手を離した。
吸い込まれるくらいなら、と飛び込むように勢いをつけ、私は自分から扉をくぐった。
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