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「もう、どうすればいいと思いますか?!」
デートの誘いを受けてしまった、その昼。
カウンターで頭を抱えるメアリーに、
「デート、普通に楽しめば良いんじゃない?」
椅子に座って、カウンターに頬杖をつきながら、友人のベラは言う。
ベラは、今年で十八歳になる、大衆食堂の一人娘であり、メアリーの友人であり、常連客だ。
「受けてしまったからには! 当日頑張りますけど! それ以前にディアンさんの振る舞いが! 心臓に悪いんですよ! 自分が招いたことですけど!」
「んー……まあねぇ……」
半分当たりで、半分間違いかな、と、ベラは思う。
そんなベラが、この状態のメアリーをどうしようかと軽く頭を振り、その拍子に、後ろで高く結わえている茶色の髪が揺れた。
ベラは、ディアンがメアリーに惚れているのを知っている。惚れ薬を飲む前から、惚れていたのを。
ベラに限らず、店に通う人間は皆、それを把握しているし、アンドレアスの住民たちも、下手をすれば半分以上が知っている。
ディアンが堅物なのは有名な話だったし、そのディアンが一目惚れした、という話は、あっという間に広まった。
その相手がメアリーだということも、半分セットのように広まった訳だが。
あのディアンのことだし、下手に手を出すと逆に引っ込むだろうから静観しよう、というのが、皆の意見としてあった。のが、ディアンが惚れ薬を飲む、ということにまで発展した原因の一つでもある。
「ていうか、劇団来るの、知らなかったな。私も誘って観に行こうかな」
ベラには婚約者が居て、今年の秋に挙式を挙げる予定だ。その婚約者は、ベラの食堂で料理人として働いていて、食堂の後を継ぐことになっている。
「それは良いと思います! でも、その、で、デート……! デートって、何をどうすれば良いんですか?! 着ていくものすら分からないんです!」
真っ赤な顔をして、涙目で訴えてくるメアリーに、
「おめかし。めかしこめ。可愛い格好をするの」
「可愛い格好てどんなのですか?!」
こりゃ駄目だ、と思ったベラは、
「私、まだ時間あるし。服とか見繕ってあげる」
と、椅子から立ち上がった。
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