140人が本棚に入れています
本棚に追加
背の高い隠岐島が、ひづりの手を引いて先に立つ。
学生の頃は、常に遠くからでしか見たことのなかった憧れの人が、いま目の前にいる。
いい男というものは、いくつになってもいい香りをまとうのだろうか。
清涼で爽やかだが、ちょっぴりドキっとするような妖艶な匂いが大きな背中から漂ってくる。
隠岐島を好きになったのは、高校二年の夏前のことだった。
誰よりも背が高くて、見た目が派手で。
実力というよりは雰囲気イケメンじゃないかと、恋に落ちる瞬間まで偏見しか抱いていなかった。
勘違いだと知ったのはボランティア部だったひづりが、新聞部の助っ人としてそれっぽくバスケ部の密着を始めて、しばらく経ってからだ。
あまりにもありがちな恋のはじまりだった。
「そう言えば田沼は、よく僕の写真を撮りにバスケ部の試合へ来てたよなあ」
ドキッとして、握られていたひづりの手がこわばる。
けれど、気にせず隠岐島は独り言のように言葉を続けた。
「ボランティア部だっけ? 頼まれたらどんな部活でも手伝いに出向くっていうなんでも屋」
積極的な活動をせず、幽霊部員が多くて楽だと言われていたから入部したボランティア部。
すごいよなあ、なんて感嘆しながら歩く隠岐島は、肩辺りに頭があるひづりにさりげなく歩幅を合わせてくれている。
――本当にすごいのは、どっちだよ……。
隠岐島が振り向かないことをいいことに、ひづりはいまだに鍛えているのだろう、彼のしなやかな肩甲骨あたりをジャケット越しに目に力を入れてじっと見つめた。
ひづりの耳の奥に、バッシュがきゅきゅっと鳴る音と、ボールがバウンドする音がよみがえる。
最初のコメントを投稿しよう!