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アカマキはパソコンを開いた。右手にはUSBメモリ。
差し込むと、すぐさまウイルスソフトが内容をチェックし、問題がないと告げる。
中には、動画ファイルとテキストファイルが入っていた。
「守子のお父さん、なんで俺の住所、知ってたのかな……」
このUSBメモリを送ってきたのは、守子の父親だ。
そう言えば、守子とは年賀状のやり取りをしていたな。ふと思い返し、アカマキはまずテキストファイルを読む。
拝啓 赤尾松蔵様
娘と仲良くしてくれて、ありがとう。
彼女の最期を、君にだけ教えます。
これが、君と彼女の生前の約束を、叶えてくれるものになりますように。
守子の父より。
頭の中が熱い。アカマキは何度も、何度も文字を読む。
生前の約束?
彼女の最期?
(いや、動画……動画を見終えるまで、信じないぞ……)
アカマキは震える指先で、動画ファイルを開いた。
全身から突き出した骨が、強化ガラスをぶち破る。
「ぁあぁああぁあぁっぁぁぁああ!!」
咆哮。
彼女が身を乗り出すと同時、漫画のように研究者たちが逃げ出して、同時に火炎放射器が作動した。彼女が部屋に落下すると、下に広がるプールに落ちる。ジョワッ! と真っ白な空気が噴き出した。
だが。
彼女は次の瞬間、再びプールから飛び出す。そして炎の海に身を躍らせると、続いてドアに体当たりした。
ドアはどう見ても開きそうにない構造をしている。ダメか、と距離を置いた彼女は首を巡らせ、部屋の片隅に注目した。
通気口。
骨の身体を脱ぎ捨てて、彼女は踊るようにそこへ飛び込んだ。
カメラ映像が切り替わる。彼女は猛スピードで通気口を伝って駆け抜けると、天井をぶち破って通路に躍り出た。
悲鳴。舞い散る書類。
パニック映画なんて目じゃなかった。涙を流して逃げ惑う人間たちを、彼女はたやすく蹂躙する。
障壁が下りる。開けてくれ、と泣き叫ぶ人々ごと、焼き尽くされる通路。
爆音が轟く。白い骨の塊になってもなお、少女は動き続けた。
守子は、駆け抜け続けた。
彼女が次に目を付けたのは、傍らにいた権威のありそうな男だった。彼の右手をドアに押し付けると、その研究室への入り口が開く。
内部に突入した彼女は、ものの数秒で窓をぶち破った。外に出る。舞い踊る硝子の欠片を追いかけて、彼女は駐車場に飛び降りた。
周囲が木々でカムフラージュされていなかったら、きっと近隣住民に見えていただろう。
でも。
彼女の逃走劇は、そこで終わった。飛び降りた衝撃が全身に走るように、ぶるぶるぶるっ、と体を震わせると、ぐったりとその場に崩れ落ちる。
数分して、黒づくめのスナイパーが現れた。こういう研究をしているのだから、実験体の脱出も予期していたのかもしれない。そう、それこそ、パニック映画の悪役みたいに……。
「パニック映画だといいな」
アカマキは呟いた。誰か名も知れぬ監督が、技術力を結集させて作ったのならよかったのに。
そうだと信じた。
アカマキはパソコンに向かう。そして彼は、漫画を描き始めた。
きっと、守子が読んでくれる。そう信じて。
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