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必死で森の中を駆け抜けながら、オリヴィアはレイルの背中に言った。
急がなければならないのは分かるが、足がもつれて呼吸が苦しい。
「レイルくん、お願い、待って……」
オリヴィアは体力があまりない。
病弱というわけではないが、箱入り娘だったため運動というものをあまりしてこなかったのだ。
気付いたレイルが我に返り、足を止めた。
「あっ……ご、ごめんオリヴィアさん。大丈夫?」
「ん、大丈夫……」
肩で息をしながら膝に手をつく。汗で髪が額に張り付いている。
「少し休もうか」
「……うん」
小川の縁に腰を下ろし、息を吐く。落ち着いてくると、あまりの情けなさに気分が沈んだ。
「……ごめんなさい、こんなことになるなんて。レイルくんまで巻き込んで……私、情けない」
レイルはくすりと笑った。
「謝らないで。僕は僕の意思でオリヴィアさんに協力したんだから」
どこまでも優しいレイルに、オリヴィアの涙腺が緩んだ。
「ありがとう、レイルくん。でも、もういいよ。ここで別れよう」
「え……?」
レイルは困ったように眉を下げ、オリヴィアの腕を掴んだ。
「……どうして?」
「……私はもう令嬢じゃない。ただの罪人だよ。そんな私を助けたなんて知られたら、レイルくんの身も危険になっちゃう。もう、帰った方がいいわ」
すると、レイルはオリヴィアに向き合い、ゆるゆると首を横に振った。
「……違うんだ。謝るのは僕の方なんだよ」
「え?」
首を傾げ、レイルを見上げる。
「ごめん……全部嘘なんだ」
「嘘?」
「ずっとオリヴィアさんのことが好きだった。兄様と婚約破棄をしたいって相談してくれる前からずっと……」
オリヴィアは目を瞠った。
「だから、オリヴィアさんが兄様を好きじゃないって知って、すごく嬉しかった。僕にもチャンスがあるかも、って……」
ふと、レイルがオリヴィアの肩を軽く押した。不意の衝撃に、オリヴィアの身体が傾く。
オリヴィアの身体が、青々とした草の上に投げ出された。すると、レイルはオリヴィアの上に覆い被さった。
見上げた先には、レイルの苦しげな表情があった。藍色の瞳は細められ、その奥には熱いなにかが揺らめいていた。
オリヴィアはごくり、と息を呑んだ。
「兄様から奪いたかったんだ。確実にオリヴィアさんと兄様が婚約破棄するように、影で君を偽ってソフィア様に散々嫌がらせをした。だから、ソフィア様が恨んでるのは君じゃない。僕なんだ」
「……レイルくん」
「それだけじゃない。オリヴィアさんが僕以外を頼れないように、クラスメイトたちにも噂を流して孤立させた。自立してほしくなくて、魔法の使い方も間違った方法を教えた」
ようやく合点が行く。正直、どうしてここまで嫌われているのだろうと思ったことはあったから。
噂というものは恐ろしいものだ。
「……幻滅した?」
レイルのよりどころのない表情に、オリヴィアはキュッと唇を引き結んだ。
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