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「ほらいくよー。さーん、にー、いーち」
「ちょっと待て。白黒だといまいち遠近感がうわああああ!」
背中を押された直後、足場を失った僕の身体は魂が置いていかれるスピードで落下した。
固い地面がぐんぐん近づいてきて、このまま死ぬのか、と諦めた瞬間に僕の魂は身体に追いついた。
というか身体がバウンドして迎えにきてくれた。
「どう? ここの屋上バンジー。なかなかにスリリングでしょ」
「いやヤバかった。走馬灯が駆け巡ったよ。モノクロの」
「あら残念」
映画を観終えてから、綾瀬は次々と僕をパニックに陥れようと画策した。
ゲームコーナーでは次々と至るところから襲い来るゾンビを二人で撃ちまくり、その後カフェに入り名物激辛クレームブリュレをおそるおそる互いの口に運び、おもちゃ売り場で偶然お試しできた黒ひげ危機一髪で罰ゲームを課して勝負し、負けた僕は五階の屋上から二階の高さまで急降下するバンジージャンプを飛んだ。
それでも心臓と舌が痛むだけで、僕の視界に色は戻らなかった。
「なかなか難しいもんだね。彼氏を慌てふためかせるのって」
「なんて彼女だ」
屋上のベンチで隣に座る綾瀬はバニラのソフトクリームをぺろりと舐めた。白がやわらかく削り取られる。
僕も自分のチョコソフトをひと舐めすると、痺れた舌に冷たい甘さが広がって心地いい。
屋上にいくつか置かれたベンチには家族連れやカップルが座っていた。買い物に疲れて休憩を取るにはちょうどいい場所だ。
柵の向こう側に広がる空の端が濃い色になってきている。
日が暮れてきたのだろう。すっかり一日中遊んでしまった。
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