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「西戸くんも美術部入るの?」  そんな声に振り向くと、夕焼け色に染まった美術室の後方に美少女が立っていて僕は少し狼狽した。  彼女は壁際に立ち並ぶ石膏像のように整った顔立ちで、石膏像よりもきめの細かい肌をしている。  落ち着いてよく見れば、その美少女は僕のクラスメイトだった。 「あ、うん。綾瀬さんも?」 「うん。でもまだ誰も来てないみたいね」  綾瀬の言うように美術室には先生も生徒も誰一人いなかった。ホームルームが長引いてるのかもしれない。  座って待っとこうか、と声をかけると「そうね」と綾瀬は近くの椅子に腰掛けた。離れてるのもおかしいよなと僕は彼女の斜め前の席に座る。  美術室に静けさが満ちた。  何か話さなきゃ。  そうは思うが入学したばかりでまだ言葉を交わしたことのない彼女に何を言えばいいんだろう。距離感が掴めない。  少し考えたのち、結局僕は「綾瀬さんは、なんで美術部に?」と無難な質問をぎこちなく尋ねた。 「私、中学で美術部だったの。だから高校でも続けようと思って」 「絵を描くの好きなんだね」 「まあね、けっこう好きかな。西戸くんもでしょ?」  綾瀬は首を小さく傾けて、茶色がかった瞳をこちらに向けた。その色に吸い込まれそうになって僕は思わず目を逸らす。  絵を描くのが好きだから美術部に。  それはとても自然な流れに思えた。だったら僕は少しズレてるんだろう。
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