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 普段なら適当な理由をつけて誤魔化していたところだが、そのときの僕は美術室に美少女と二人きりという状況に混乱していた。  そして気づけば「いや僕は」と話し出していた。 「僕は美術室が好きだから」 「美術が、じゃなくて?」 「うん。この場所が」  僕は傷や絵の具で汚れた木製テーブルを指でなぞる。  壁には生徒の作品が飾られていて、床には描きかけのキャンバスやイーゼルが立てかけられていた。  棚の上には石膏像や書籍、使用済みの筆が何本も刺さった缶、芯の長い鉛筆と消しゴムが入った箱もある。 「いろんな色があって、楽しそうだから」  室内を眺めてから彼女に視線を戻すと、彼女はじっとこちらを見つめていた。  何か変なことでも言っただろうか。  「どうしたの?」 「え、いや、えっと」  僕が尋ねると綾瀬は慌てて目を逸らした。  なんだか口ごもっていて彼女らしくない気がしたが、さっきまともに話したばかりの僕が思うことだ。勘違いかもしれない。 「……あの、いい理由だね」 「そうかな。ありがとう」  おずおずとそう告げた綾瀬にお礼を返したとき、からりと美術室の扉が開く。  そして入ってきた先生に、僕たちは二人揃って入部届を提出した。
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