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「あのとき、西戸くんの“好き”はすごく純粋だなって思ったの」
隣には座る彼女は空を見つめたまま微笑んだ。
好きという感情に純度の差があるのか僕にはわからないが、人より多く好意を向けられてきた彼女には見えるものがあるのかもしれない。
「純粋で素敵で、いつまでもその気持ちのままでいてほしいなって思ってた。……なのに、ごめんなさい」
「別に綾瀬のせいじゃ」
「私のせいだよ。ひとつしかない目で何箇所も見られるわけないのに」
わかってたんだけどさ。綾瀬はそう続けた。
「でも、欲しくなっちゃったんだ」
ひんやりとした風が僕たちの間を抜けていく。
彼女の長い髪がふわりと広がって、その横顔を隠した。
「一緒に部活したり話したりしてるうちに、西戸くんの“好き”が欲しくなった。こっちを向いてほしいって思いはじめて、どんどんその気持ちが大きくなっていった」
ひとつひとつ丁寧に丸められた綾瀬の言葉がころころと心地よく僕の耳元に転がってくる。
「それで気付いたら、私が好きになってた」
僕も空を見つめていた。
まるで自分宛のラブレターを読み聞かせられているような、嬉しさや照れ臭さが入り混じって彼女を見ていられなかった。
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