金を掘る熱い兄弟

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 カツンッ、カツーンと洞窟内につるはしが岩壁を削る音が響き渡る。 「全力だ! 全力で掘るんだ弟よ!!」  つるはしを振り下ろしながら、俺は隣を掘る弟に声を掛け続ける。 「わかってるさ兄さん! …でも、今の時代金鉱脈を手作業で掘り当てるなんて無茶じゃないかな兄さん」  弱気なことを言いつるはしを振る手が止まりかける弟。  カツンッ、カツーン……バキッ!  つるはしを振り下ろす音の中に、俺が弟の頬を殴る音が混じった。 「痛いよ兄さん! なにするのさ!?」  ほほを抑えて地面に尻餅をつく弟。  俺は弟をひったたせて怒鳴る。 「馬鹿野郎が! 借金取りに家も重機も資産は全て取り押さえられちまっただろが! かろうじて残されたのはこの山とつるはしと……俺達に代々流れる金鉱堀の血だけだ! 一発当てて見返してやるんだろ? ちげぇか!?」  弟は目をまん丸に見開いて何かを悟ったような表情を浮かべる。  そこに先ほど浮かんでいた弱気さは微塵もない。 「そうだったね兄さん、僕が間違っていたよ。重機なんてなくても、僕たちには金を掘ってきたご先祖様の血が流れてる……金を掘り当てて世の中を見返してやろう!」 「ふっ、いい面構えになったじゃねー弟よ」  洞窟の中を掘り進めているとその闇に心が後ろ向きになることがある。  俺達の家系ではそれを洞窟憑きと呼び、昔から鉄拳制裁による気つけを行っていた……とは俺がよくじいちゃんから聞かされていた昔ばなしだ。 「そろそろ昼時だろ。一回休憩すっか」 「そうだね兄さん。僕お腹ペコペコだよ」  一度つるはしを置いて、昼飯にしようとした時だった。  ゴゴゴゴゴ……! 「兄さん! 地震だ!! どうしよう!? 生き埋めになっちゃう!」  地響きと共に足元が揺れ始め、ぱらぱらともろい岩壁が崩れる。  弟は真っ先に光の差し込む方向へと駆け出そうとするが、俺はその首根っこを掴んだ。 「落ち着け弟! へたに動き回ったら落ちてくる岩でケガするぞ! この鉱脈はご先祖様が代々掘り進めてきた頑丈な鉱脈だ! ちょっとやそっとの地震で生き埋めになんてならんさ!」  ドガガガガッッ!!  次の瞬間。光が途絶えた。  洞窟入口への道が崩落したのだ。  「兄さんの言ったとおりだ……下手に動いてたら今の崩落に巻き込まれて僕死んでたよ! ありがとう兄さん!!」  なんて、弟は落ち着き払って俺に礼を述べる。  ……嘘だろ、ご先祖様? 「ばっかやろう! 入り口がふさがれちまったってことは出口がねーんだよ!」  その事実に気付いたのか、弟の顔は一気に青ざめた。 「ど、どどど、どうしよう兄さん! 僕たち生き埋めだ!!」  ひぃいいい! と借金取りが扉をけ破ってきた時と同じように、頭を抑えて小さく体育すわりをする弟。  その怯えようを見ているうちに、俺の頭も若干冷静になったようだ。 「よし、よし、大丈夫だ。大丈夫。……弟、俺達結構掘り進めてきたよな? 多分山の三分の二以上は来てると思うんだがどう思う?」  俺は弟を落ち着かせようと、きわめて落ち着き払った声音で尋ねる。 「……それは、そうだけど。まさか兄さん、この洞窟を開通させる気かい? そんなの無茶だ……」  目論見通り弟は若干冷静になってくれたが、心が完全な闇に染まった洞窟と同じように暗く染まっている。  しかたない……。 「歯ぁ食いしばれ!!」 「へ?」  黄色の安全ヘルメットを脱いだ俺は、ヘルメット越しの弟の頭に頭突きを食らわす。 「ぶべら!?」  弟は吹っ飛び、岩壁にぶつかる。  勿論、俺の額はカチ割れ、ドクドクと血が流れ出る。 「な、なにするのさ兄さん!? ……って、血が、ヘルメットに頭突きなんてするから……」  俺は仁王立ちで恫喝する。 「選べぇい! このままここで生き埋めになるか! それとも無茶を承知でこの洞窟を山の反対側までつなげるかだ!!」  弟はぶるっと一度肩を震わせ、立ち上がる。 「そうだね兄さん……やるよ僕、こんなところで終われない。終わってたまるか」  つるはしを握った弟は戦う男の顔つきになっていた。 「へっ、どうやら憑きモノは完全に落ちたみてぇだな」  俺は、額から零れ落ちる血潮を拭い、つるはしを手に弟の横に並ぶ。  俺達の前にはまだ掘りつくされていない厚い岩壁が立ちふさがっている。 「いこう兄さん!」 「一丁前に吠えやがって!」  ヘッドライトを付けて、つるはしを振る。  カツンッ! カツンッッ!!  ガッ! 「あ?」 「なんだろう?」  何か岩じゃないモノを掘りあてた音と感触に、一度手が止まった。  ライトの光を当ててみると、キラキラと黄金に輝く欠片が……。 「に、ににに、兄さん! これって……!!」  動揺してぶるぶると黄金色の欠片を持つ手が震える弟。  俺は頷く。 「ああ、金だ!」 「やったぁああああ!」 「と、飛び跳ねたい気持ちはわかるが、弟よ我慢しろ。トンネルを開通させるぞ!」  俺はその辺に金の欠片を投げ捨ててつるはしを振る。 「あ、……そ、そうだね兄さん」  未練がましそうな弟もつるはしを振る。  カツンッ! カツン……。  足元にはぱらぱらと金の欠片が落ちてくる。 「……に、兄さん。ポケットに詰め込めるだけ詰め込んじゃ、ダメかな?」 「ならん! ならんぞ弟! 重量が増えればそれだけ体力を消耗する! 俺達は生きて洞窟からでなくちゃならんのだ! だから……」  と言いつつ、俺の目は金から離れない。  金は時に命よりも重いという。  それとも、金鉱堀の血筋の性か……。 「兄さん! ポケットに金を詰め込んでるよ!?」 「なに!? くそ、これが金の魔力!?」  落ち着け、落ち着け俺の欲望!!  俺達は金と戦いながら洞窟を掘り進めていく。
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