閉じ込めた光の姿は

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これでもまだ還暦前なんだけどなあ。 歳のせいだろうか、暇になると未来の予定より過去の栄光ばかり想ってしまう。 いや、栄光なんて何も無かった、ただ若かっただけ。それだけで、ただそれだけで栄光の日々なんだよな。 例えば今日みたいな真夏日には、休みとは言え買い物に行くのも面倒だ。 でもあの頃はシャツが絞れるくらい汗をかいて、さあ八月よかかって来いと言わんばかりの勢いで仕事に走り回っていた。あのナイスガイは確かに僕だったはずだ。嘘じゃない。 太陽、お前は覚えてくれているかい。不思議と女の子にもモテた僕史上最強の時代を。 そんなものそれこそ過去の栄光。とうとう結婚をしなかった僕には子供も孫もいない。今更誰に語る事もない。 でもたまには、あんな事もあったねえと一張羅の思い出を取り出して広げてみたり、しまい込んだ青春もカビが生えない様に陰干ししておかないと、本人だって「そんなのあったっけ?」と忘れてしまう事がある。それはさすがにどうかと。 なあ太陽、ギラギラしてるけどお前もけっこう暇だろう?今日は思い出話に付き合ってくれたまえ。ほら、麦茶くらい出すから。 僕は写真を撮るのが趣味だが、若い頃は本職のカメラマンだったんだ。知ってるよな。 ちょっと変わった仕事だけど、その中でも特に変わった仕事の、今では絶滅危惧種である「観光写真業」のカメラマンだった。 そう、普通のカメラマンじゃない。 だから「俺達は黒き闇のカメラマンだ」とか「悪の腹黒い写真屋さんだ」とか言ってみんなでふざけていたよな。悪い事なんて何もしていなかったけど。 当時は業界最大手で、北陸から沖縄まで営業所があった僕の会社は今でも一応名前だけは存在している。 だけどまた栄える事はあり得ない。 世の中がずいぶん変わってしまったからだ。 ゆっくりゆっくり異世界転生したみたいに。
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