閉じ込めた光の姿は

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なあ、太陽さん。 僕は本当に、ゆっくりゆっくり何年も掛けて異世界転生をしていたのではないか。 せめてモテ期はもう少し長い設定でも良かったのに。 それからいろんな事があって、いつの間にかこうしておじさんになっている。 今でも写真が趣味のつもりだが、果たして認めてもらえるだろうか。 何しろ僕は写真屋さんを辞めてから写真を撮っていないのだ。 本当に撮りたい物だけを、心を動かされた物だけを撮ろうと決めた僕のカメラは、彼女という光を失ってから一度もシャッターを切っていない。 だから最初に装填した36枚撮りのフィルムは今も撮りかけのまま、カメラの中で約三十年ずっと出番を待っている。 なあに、人生なんてフィルム一本で十分撮り切れるのさ。無闇にたくさん撮るものじゃない。 あの子の写真は絶対に奇跡の一枚のはずだ、自信がある。大きく引き伸ばして額に飾るんだ。 写真ってのは仕上がりを待つのも楽しい物さ。 えっ、フィルムは大丈夫なのかって? せっかく撮ったものが真っ黒になってたらどうするんだって? それでもいいじゃないか。 真を写すと書いて写真。 嘘偽りない真の姿を、そのまま閉じ込めるのが写真。 そこには僕が出会った一番眩しい物が写っているのだ。 いつか全部撮り切って現像に出すつもりだけど、無理かもしれない。 太陽、その時は最後にお前が見てくれ。 黒いカメラマンのベストショットをね。
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