閉じ込めた光の姿は

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ここまで、昔は写真を撮ってそれを眺めるまでにかかる手間も時間も料金も違った、という話をしてみた。 だけど写真だけじゃない、大きく変わってしまったものはたくさんある。 例えば旅だ。旅行もずいぶん変わった。 当時は大型観光バスを貸し切っての団体旅行が頻繁に行われていたんだ。旅行と言えば個人より団体だった。 日本中の観光地を豪華な大型観光バスが群れをなして駆け回っていた。まるで某有名アニメの虫の王様みたいに。 会社の慰安旅行、地域の老人会や婦人会町内会、PTA、親戚一同の集まり、その他何でもあり。仲間同士が集まってガイドさん付きのバスの旅。 更に、「立山黒部アルペンルート二泊三日の旅」「加賀温泉郷と兼六園と輪島の朝市三泊四日」等とコースを設定して参加者を募集、添乗員付きで出掛ける旅行会社のツアーパックも盛んだった。こちらは会った事もない人達と共に旅に出る訳だ。 廃墟みたいになってる巨大温泉旅館の画像がネットで有名になっている。 当たり前だけどあれは最初から廃墟じゃなかった。需要があったんだ。満員の団体客で連日連夜溢れ返って盛り上がっていたんだよ。 いわゆるバブルが弾けた時代。社員旅行だってステイタスだったのさ。 なぜわざわざ他人と一緒に旅行なんて苦行を積まなくちゃいけないのか。しかもお金を払って。 今はきっとみんなそう言うのだろう。 忘年会も飲み会もいらない。仕事が終わったら上司の顔なんて見たくもない。それより金をよこせ、と。 でも当時は楽しみにしている人の方がずっと多かった。 みんなで旅して、温泉に入って宴会して、笑って歌って酒飲んでバカなことやって。 時々ケンカもしたけれど、楽しかった。 会社のイベントに強制参加されられた闇の時代だと言われればそうなのかもしれない。 いろんな事がハラスメントとして認められ、個人の自由か守られる。良い時代になったのだろう。 時代が変われば人は順応しなくてはならないのだ。 まあ、そんな時代。 僕はカメラマンだった。 普通のカメラマンじゃない。 自称・黒き闇のカメラマンだったのさ。
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