閉じ込めた光の姿は

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カメラマン、と言えば多くの人が連想するのは。 冷暖房の効いた明るく広いスタジオに豪華な機材をずらりと並べて。 兵器みたいなでっかいカメラのフレームを覗き込みながら。 レフ板を抱えた助手にああだこうだと指示を出して。 素敵なドレスを着た綺麗なモデルさんに「はぁいいいですね〜そのままそのまま」とか言ってパシャパシャやってる、ベレー帽とベストのオジサマではないだろうか。 正直、僕はカメラマンとはそんな感じだと思っていた。 断じて馬鹿にしてはいない。実際そういうカメラマンになるには相応の実力と長い下積みが必要である。決して楽な仕事ではない。 そしてどんな道にもきっと表と裏があり。 僕が歩いて来たのは裏の道なのだ。 僕らはそんな快適なスタジオの中にはいなかった。 夏は陽炎がサンバを、冬は北風がロンドを踊る、黒いアスファルトの上に。 必ずネクタイを締めて立っていた。 ある時は観光地やイベント会場のだだっ広い駐車場に。 またある時は博覧会やテーマパークの砂利を引いたパーキングに。 満員のお客さんを乗せた大型観光バスが毎日、何十台も何百台もやって来る場所に僕らは立っていた。 僕らはまず、広い駐車場を駆け回ってバスの誘導をする。 駐車所には駐車場の事情がある。単純に奥から並んでもらえば良い訳ではない事もある。 そして降りてきたお客さんに一旦集まってもらうために声をかける。 団体で入場するのだから、勝手に散らばられては困るのだ。 そして幹事さん、または旅行会社の添乗員さんと打ち合わせをする。 クーポン券はどうするのか、団体で食事も予約してある場合は予定時間に変わりはないか。 バスが出発する時間は何時の予定か。などなど。 みんなに伝えておくべき事があるなら、バスを降りた今が最後のチャンスなのだ。 打ち合わせは親切丁寧に、明るく好感を持たれる様に。 そうする事で少しでもお客さんに接近する。 そして駐車場にセットされた撮影台を指差し、最高の笑顔で今こそ言うのだ。 「ところでお客さん! どうでしょう、ここで記念撮影など!」
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