28人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
つまり、観光地と契約をするのだ。駐車場の世話をするからお客さんの集合写真を撮らせて欲しいと。
さあさあ写真を撮りましょう!とけしかける僕らに、おっそうだなと幹事さんがノッてくれれば良いが、我に返ると断られる。それでも必要なご案内は観光地のスタッフとして丁寧に行う。
そして撮影させてもらえたなら、バスの出発時間までに仕上げて販売するのである。
街の写真屋さんが一週間かかっていた頃に、僕らは既に三十分仕上げの機械を導入していたのだ。プロだからね。
更に、テレビでも紹介される様な温泉旅館とも契約していた。
家族連れやカップル等の宿泊のお客さんが到着されたら、いらっしゃいませと頭を下げ予約名を確認、フロントへ通してお迎えする。
旅館のスタッフが足りない時には、そのまま部屋まで荷物を運んだりもする。
そして団体客のバスが到着したら、宴会場での集合写真やスナップ写真の撮影を交渉するのだ。
時には玄関に並んでもらって集合写真を撮ったり、「入り込みスナップ」と言って、お客さんがバスを降りて玄関から入ってくる所を有無を言わせずスナップ写真を撮りまくったりした。
これにはコツがあって、ピント位置は固定でフットワークを使ってファインダーの中に二〜三人のお客さんを捉えるのだが、バス一台で十枚くらいは撮れたかな。
それを翌朝ロビーに並べてお客さんに買ってもらうのである。
現在なら勝手に写真を撮って売るとは何事だと文句を言われたり、何なら訴えられるかもしれないが、当時はそんな事は一度もなかった。
なお、ツアーの宴会時間は午後六時〜七時から、出発時間は午前八時〜九時が一般的だ。
定時に出勤退社していたら撮影も販売も出来ない。残業は毎月百時間を平気で超えた。最高記録は二百三十時間。達成した日にはみんなが缶コーヒーを奢ってくれた。もちろんブラックだ。
その上社員は全員、昼間の駐車場でこんがりと焼けて冬でも爽やかな小麦色だった。
何の捻りもなく、確かに僕らは黒き闇のカメラマンだったのである。
最初のコメントを投稿しよう!