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僕らは観光地の駐車場やトイレの掃除も当然の様に引き受けていたのだけど、ある日彼女は掃除を終えて汗びっしょりでトイレから出てきた僕とばったり出会い、少し引きながら、それでも微笑んで言ってくれたのだ。
写真屋さん、いつもありがとうございます、と。
僕は毎日、忙しくファインダーを覗いていた。 普通に生きていたら撮れない数の写真を撮る為に、前だけを見ていた。
そんな僕らを見ていてくれる誰かのファインダーもある事を、彼女は教えてくれたのだ。
写真を売る事以外は何をしても一円にもならない僕らが、観光地の為お客さんの為にしている事を、見ていてくれた、分かってくれた人もちゃんといたのだ。
言っただろう?不思議と女の子にもモテた僕史上最強の時代だと。
観光施設の従業員である彼女との会話は弾みまくり、二人はすぐに特別な関係になった。
だから初めて「ちゃんとしたカメラ」を買ったんだ。彼女の写真を撮る為にね。
写真が趣味の僕が今でも使っているカメラさ。
僕は数え切れない程の写真を撮って来た。
仕事の為だ。仕方のない事だ。
だが写真とは本来、こんなに量産するものではないだろう。ましてや仕方なく撮るものではない。
だからせめてもの罪滅ぼしに、なるかどうかわからないけど。
僕は自分のカメラでは、本当に撮りたい物だけを撮ろうと。素敵な物、綺麗な物。心を動かされた物だけを撮ろうと決めたんだ。
太陽よ、お前がギラギラ眩しく照りつける景色を撮影すると、フィルムはどうなると思う?
そう、光を感じて化学反応を起こすネガフィルムでは、眩しい物ほど逆に黒く写るのだ。
ブラック企業で小麦色に日焼けしてブラックコーヒーを飲んでいた。
黒き闇のカメラマン、等とふざけていた。
そんな僕だけど、心の中は真っ白になりかけていたのさ。
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