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2.旭と佐々木
翌日、総務部に役員の刺客が送り込まれた。
「秘境の温泉地ですか」
「そうそう。秘境っても辺鄙なとこじゃないよ。ちゃんとした温泉地だし、名前も知れてる。何より焼酎が美味いんだよね」
目の前で目を輝かせながら、その温泉地の魅力を猛アピールするのは専務の清田だ。その清田率いる役員一同による社員旅行プロジェクトメンバーへの無言の圧力……。にっこりと笑う清田。汗を流しながら力なく笑っているのはプロジェクトリーダーの課長である仲村だ。
(もう勝ち目なんかないな、こりゃ)
旭は二人の様子を見ながらそう感じる。昨年のリーダーはまだ少しはものが言える社員だったが、仲村は役員たちの腰巾着だ。
「どうかな。仲村くん、みんな。期待しているよ」
仲村がハイッと答え、旭は心の中で佐々木に謝った。
(お前の行きたいとこになりそうにないや)
三か月後。ようやく迎えた社員旅行は、清田たちの希望の温泉地となった。温泉宿に到着した一行は、バスから降りてそれぞれの部屋へと向かう。
一日目の観光を終えて、夕食は社長主催の大宴会。部屋に荷物を置き、一息ついた旭は、大きな背伸びをした。
行先が社内で掲示板で発表された時の、若手社員のブーイングは総務部への文句ではなく、役員に対するものだった。そこだけが救いだったのだがやっぱり気は重い。
(きっと佐々木も文句言っているんだろうな)
できることなら、このあとの宴会も出席せずに部屋で寝てしまいたい。だけどそんなことは出来なくて、意を決して宴会場へと向かう。いつもなら佐々木が見える場所に席を陣取るのだけど、今日はそんな気分になれなかった。
「旭〜! ちょいこっち来て」
宴会も終盤に差し掛かる頃、酒が回って皆がいい感じに出来上がりつつある中、背後から名前を呼ばれて旭は振り返る。
そこにいたのは同僚の島崎だった。首まで真っ赤になっている。かなりもう出来上がってしまっているようだ。隣には同じ課の同僚たちがいた。そしてその中に佐々木の姿が見える。
「何?」
「俺さあ、こいつらの部屋で麻雀するんだ。遅くなるからよろしく!」
旭の部屋は島崎との二人部屋だった。その島崎が戻らないと言うことは一人で寝れると言うことだ。旭は今日一日気を使っていた為、ヘトヘトに疲れてたから好都合だ。
「ああ、分かった」
「麻雀しかやることねえもんなあ、外は田舎だし、風俗も行けねえし」
「場所がここになってごめんな、一応抵抗はしてみたんだけど」
「お前のせいじゃないよ、気にすんな。でも風俗行きたかったなー。佐々木も行きたかっただろ」
「せっかくのチャンスだしな」
佐々木が笑うともう一人の同僚が笑い出す。
「でもさあ、みんなで風俗行ったらさ、帰り待つようになるじゃん? 部屋出たら誰もいなくて俺、一番早いの? ってなったらちょいショックでさ」
「間違いない」
大笑いしながら、じゃあな、を旭に手を振りその場から立ち去る。その騒がしい団体の後ろ姿を見送って旭は一人、部屋へと向かった。
部屋に戻って、風呂に行こうとしたがめんどくさくなってそのまま、敷いてある布団になだれ込むように倒れた。
(あー疲れた)
大勢の宴会は旭にとっては少し苦手だ。全く飲めないわけではないし、仲の良い同僚もいて話もそこそこ、盛り上がったのだが、もともとあまり大騒ぎする方ではない。
目を瞑ると、さっきの佐々木の顔と言葉が浮かんできた。
(せっかくのチャンス、か。やっぱり佐々木も風俗行くんだな)
社員旅行の夜は風俗へいく輩が出るのは毎年恒例だ。それが目的で都会がいいと言っている社員がいることも知っている。それ自体は咎めないのだが、その中に自分の好きな人がいれば話は別だ。
どんな感じに女性にサービスされるんだろうか。どこを触ったら、佐々木は気持ちよくなるのだろうか。そんなことを考えているうちに、睡魔が襲ってきて旭はそのまま眠ってしまった。
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