暗闇で

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暗闇で

「うわあああ暗い暗い暗いよおぉ!!」 「ど、どうしたの奥田くん…⁉︎」 「暗い!」 「だ、大丈夫だよ。消灯しただけだよ」 「せまいよぉぉ冷たいこわいよぉ…」 泣き出しそうな声で取り乱す奥田くんを見ているとこちらまで苦しくなるようだ。 「ごめんなさいごめんなさい」 「何を謝っているのさ」 「ちゃんと勉強するから、もっとべんきょうするから…」 「うん、うん」 「ここから出して、、もうひとりぼっちは嫌だ…」 絞り出した言葉からなんとなく察してしまった。 奥田くんの感じる恐怖や悲しみが、皮膚を通して伝わってくるような気がする。 怖かったんだ。 そして今も、ずっと怖いんだ。 きっと暗闇とひとりになる事が。 恐れるものは僕とは真逆だけど、何かのトラウマに今も苦しんでいる事は同じだ。 「怖いね。怖いね」 「うん」 「怖かったね。でももう大丈夫だよ」 「うん」 精一杯優しく聞こえるように話す僕の声を聞きながら奥田くんは子供のように頷いた。 その様子はどうにか平静を取り戻そうとしているようだった。 僕は僅かに動く手で奥田くんの肩を撫で続けた。 大丈夫大丈夫大丈夫。 そうしているうちに雲に隠れていた満月が顔を出して暗闇を照らした。 それを見た奥田くんの目に安堵感が宿った。 「大丈夫?」 「う、うん。すまない高山くん。見苦しいところを見せてしまって」 いつものしっかりとした奥田くんに少し戻った様子だ。 「いやまぁ、僕の方こそ」 僕がそう言うと奥田くんは気まずそうに微かに笑った。 「暗いのが苦手なの?」 「うん、まぁ、少し」 少しどころじゃなさそうだけれど。 「ごめん。この状況下手すれば朝までどうにもできそうもない」 「そ、そうなのかい?」 「ごめん。こういう体質なんだ」 「…そうなんだ。なんか僕も悪い事したのかも。申し訳ない…」 「いやもういいんだ。あと、、単純に気持ち悪いよね。ほんとに申し訳ない」 「そんなこと…」 そう言いかけて奥田くんは下を向いた。気を遣わせてしまっているのは明らかだ。 内心ものすごく引いているのだろう。 その後奥田くんは僕の目を見て続けた。 「変に思われるかもしれないけど、なんかあんまり嫌じゃない」 「へ?」 「なんというか…あったかくて、包まれているような安心感がある…んだ」 「えぇ」 「君はほら…優しいから」 本当にそう思っているかのような口ぶりに僕は困惑した。 そんなふうに言われるなんて思わなかったから。 月の明かりが容赦することなく紅くなった僕の顔を照らしていた。 奥田くんには悪いがもう一度雲に隠れてくれないか。
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