距離

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距離

安心して眠くなったのか奥田くんはそのまま眠ってしまった。 子供のような奥田くんの寝顔を見ていると僕も落ち着いたのか絡みついた汗は溶け出し身体に自由が戻った。 その後もまぁいろいろ大変だったけどなんとか奥田くんをベッドに寝かせて、僕は水をがぶ飲みした。 あれだけ汗をかくんだ異様に喉が乾く。 そうしてようやく僕も眠りについた。 なんだか長い夜だった。 朝になって起きたら奥田くんの姿はなかった。 いつもは奥田くんに起こされて一緒に食堂に行くのに。 その日の放課後も花に水をあげている僕に声をかける姿はなかった。 避けられている。そりゃそうか。 あんな事があったんだから避けたくもなる。 やっとひとりの時間を手にしたというのに何故だか落ち着かなかった。 嫌われたのなら仕方がない。 だがせめてもう一度だけ謝ろう。 そしてその後はもう関わらなければいい。 図書室でやっと奥田くんを見つけた。 相変わらず真剣にしかし苦しそうにノートを見ている。 話しかけたら悪い気がして、廊下で待っている事にした。 夕陽が沈みかけた頃やっと奥田くんが図書室から出てきた。 「あ、高山くん」 「や、やぁ」 「どうしたの?こんなところで」 「君に謝りたくて。昨日の事」 「え?」 奥田くんは驚いたような顔した。 「謝るって?悪いのは僕だろう?」 「え」 「僕のせいでああなったわけだし」 奥田くんは言いづらそうに言った。 「君が言ったとおり、僕はひとりになるのが怖いんだ。馬鹿みたいだけど。だから君にまとわりついて…君は嫌だったんだよね」 「そんな」 違うと言えば嘘になる。 「君が優しいから僕は君に甘えていたんだ。昨晩その事にやっと気がついて…だから今度からは君に迷惑をかけないようにするよ」 「大丈夫なの?」 「ん、ああ。克服していかないといけないからね」 そうだ。 克服していかなければいけない。 いや克服していけるんだ。きっと君も僕も。 「あのさ、奥田くん。君とはもっといい距離感でやっていける気がするんだ」 「え?」 「お互いにいい距離感でね」 これは嘘じゃない。 何故なら奥田くんと話していても僕はもう汗をかいていないから。 こんな事は家族以外に初めてだけど、きっともっといい関係を築いていける。 友達として。 僕はそう思う事にした。
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