月が落ちる

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 月が地球周回軌道を外れた。  なんの前兆もなく、それはいきなり起こったのだ。世界中の宇宙学者、天文学者、物理学者など多くの研究者の誰一人気が付かなかった。気が付いたときにはもう対処のしようがなかった。月は明日には地球に衝突し、といわれている。  世界中がパニックにおちいった、世界の大都市、地方都市など都市の大小に限らず一部の市民が暴徒と化した。店舗を荒らし強奪を繰り返し、やがてパニックは増悪し暴徒同士での殺し合いが始まった。そして、世界は血で覆われた。  昼間は血で赤く染まった世界も、夜の帳がすべてを覆いつくしていく。  朝になり、ますます月は地球に迫っていた。マスメディアとしての使命感のもとに、今でも放送を続けているラジオ局の報道では、世界各地で起きていた暴動はどこも鎮静化したらしい。鎮静化といっても平和的に暴動が治まったわけでも、軍隊によって鎮静化されたわけでもなかった、暴徒と化した全員が殺し合いによって命を落としたからだった。  地球に接近していた月が少しずつ離れていった。地球に衝突することもなく、なにごともなかったかのように元の地球周回軌道に戻っていったのだ。この現象についても、世界中の学者が一様に頭をひねっていたが、世界的なパニックは完全に落ち着いていった。  滅亡を免れた地球上のいたるところに暴徒たちの死体が転がっていた。
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