就職した会社が悪の秘密結社だったんだけど、どうしたらいいですか?

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 と、軽いノックの音がして、戸口から若い男性がひょいと顔を出しました。面接の2人と軽く挨拶し、差し出された書類を見ながら2、3小声で言葉を交わしてから、私のほうに振り向き、入社おめでとう、これからよろしく、と、にこやかに握手を求めてきました。何でしょうこの人。かなり馴れ馴れしい。若手社員の方でしょうか。それとも、この方がメールをくれた『紺野』さん?  差し出された手に戸惑う私に気付いて、おじ様が、ああ、と声を上げました。 「田村さん、すみません、紹介がまだでしたね。こちらが社長です」 「へ?」 「あ、ごめんごめん、まずは自己紹介だよね。この会社の社長の、麻生です。これからよろしく!」 「麻生、社長?」 「そうです」  ポカンとしながらそう復唱する私に、眼鏡さんがそう応えてくれました。こんな面接に、社長自らお出ましとは。感激です。これからがんばろう、そう内心で熱く思っていると、社長が、例のこと、もう言った? と面接官のお2人に確認しはじめました。例のこと? 何のこと? 「いえ、まだです。ですから、お出でいただいたんですよ。これは、社長の口から言っていただかないと」  5. で表記が止まっているホワイトボードを示しながら言う眼鏡さん。ああそうか、じゃあ、と軽い口調で言い、社長が軽く咳払い。一体、何でしょう? 「ええとね、これが一番重要なことなんだけど」 「はい、あの、社外秘、ですか?」 「そうそう。あのね、実は」  すっと目を(すが)めてから、強い目力全開でこちらを見つめてきます。え、え、何でしょう、晴れやかな気持ちが急に緊張してきました。でもだいじょうぶ、就職難を経て、私、だいぶ図太くなりましたよ。ちょっとやそっとでは動じませんよ。  どんとこい! 「健康で豊かな人生を送れる世界の実現を、というのは、組織のほんの一面に過ぎない。いわば、表向きの顔だ。真の目的は、世界征服にある。つまり僕らの本業は、世界征服を目指す、秘密結社なんだ」 「……………はぁあああ?」
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