トリあえず皆さんにはデスゲームに参加してもらいます

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「トリあえず皆さんにはデスゲームに参加してもらいます」  なに言ってんだお前。とりあえずの心意気でそんな物騒なもんに参加させるなや。  その場にいる誰もがこう思った。 「……えー、ひとつ質問。おたくがこのデスゲーム? とやらの主催者で?」 「はいそうです」  あからさまにミステリードラマ二時間スペシャルとか、日曜朝のスーパーなヒーローの時間とかの撮影で使われていそうな洋館の正面には、あからさまに胡散臭いスクリーンシートがかけられていて、そこから白いお面を被った人が映されている。 「最近の精神学だと、吊り橋効果とか、閉じ込めてデスゲームさせたら本性わかるとかは否定されているそうですけど?」 「まあまあまあ、そんなことお気になさらず」 「気にするわ」 「というか人間の本性見たかったら、地方のファミレスで働けばわかりますよ。金かかっているところは案外お金をちゃんと使えるだけの常識的な人が多いですけど、ファミレスだったらお客様は神様ですって言葉を真に受けてアイムゴッドと思っているアホな客が多数来店しますし」 「いや、金持っているところは持っているところで、倫理観マジやべえのとかいるから。店員は動くオブジェだと思ってたら酒入るとヤバイことペラペアしゃべる客はいるから。もう人間の本性見たかったら酒出す店をはしごすりゃいいんですよ。不倫の話とかえぐいほどの年の差婚とか略奪とかやべえ話いっぱい聞けますよ」  何故主催者に、人間の本性を見られる場所のプレゼンをしなければならないのか。  特にここにいる女三人は種類は違えど接客業らしく、「うちの客がヤバイオブザイヤー」を開催してえっぐい人間性疑う客プレゼンを開始している。聞いているこっちの胃が抉れそうだ。 「あのう、困るんですけど。今日試験なんで」 「おや資格試験? もう受験シーズンは終了したと思うけど」 「いや進学試験です。試験期間中にインフルエンザで受けられず、これで進学試験受からなかったら留年なんで勘弁してほしいんですけど」  昨今は新型コロナ終了でパンデミックは過ぎ去った空気になっているものの、感染症流行は変わらない。インフルエンザも基本的に一週間が出席停止処置になるのだから、そりゃ受けに行けないと困るだろう。 「あとこの手の主催者にわからせ展開って言ったら、地方に飛ばして派遣社員させるですよねえ」 「学生時代、派遣社員に混じって期間限定でバイトしてたけど、あれは生きた部品になっている感覚で人間性無視されてひたすら動くだけだから。あれ放置しといて『人権だ』『自由だ』という政治家は無理になったわ」 「海外のリアリティーショーでもセレブに一週間肉体労働体験させるって企画があったらしいですけど二日でダウンしたんですって。視界が広がってよかったですよね」  しかし彼らは気付いているんだろうか。  先程から主催者が黙り込んでいる事実を。 「ええっと……本当にもう解散したほうがよくないですか? もう自分たちで殺し合いするより、人間の本性垣間見たでしょ?」  デスゲームの盛り上げ役として、円滑にデスゲームが行われるよう参加したものの。  金持ちをデスゲームに放り込んだら札束で探偵と警察と政治家と弁護士を動かされるから却下。  そうなったら呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃんは一般人になる。一般人がセレブリティの常識なんか知る訳もないから、そりゃもう文句のひとつやふたつも垂れ流したくなる。  閉じ込めたらきっと、皆で力を合わせて脱出してくれるとかいう少年漫画展開も。  逆に絶望して打ちひしがった挙句に殺意の波動に目覚める鬱展開も。そんなものお目目きらきらさせて期待させるもんじゃない。  皆程よく泥沼にはまって、程よく足を引っ張って泥に沈めてそれ以上のことはしないのだから。  デスゲーム主催者のピュアハートが傷つくののフォローはバイト代に入るんだろうかと、そっと溜息をついた。 <了>
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