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わたしはポケットの中のナイフに触れ、手に取った。こんなものはわたしは知らない。存在するわけがないのだ。
「なるほど、それが凶器ってやつか。なんの変哲もないナイフだが、血のりが付くと随分と禍々しく見えるもんだ。そんなものは記憶と一緒に捨ててしまうといい。そうすれば、楽になれるだろう」
「よすんだ。都合のいい記憶だけを継ぎはぎしたところで、そんなものが人生と呼べるものか」
二人がわたしの答えを待ち構えている。記憶がない以上、罪を認めたくはない。かといって、実際にわたしがやったのなら、これから先、さらに重い罪を背負っていくことになる。せめて、真実を知る方法があれば。
「なるほど。真実を知ることさえ出来れば、二つの道を選べるというんだね?」
「それは……」
素直にそうだと答えたかった。でも、万が一わたしが犯人だとしたら、その罪を受け止めきれるだろうか。正直なところ、彼がいなくなること自体は喜ばしいことだと思ってしまっていた。わたしは彼から受けた数々の悪意を、そのまま返しただけなのだ。彼の命と釣り合うかどうかは正直わからない。でも、心を病んでしまうほどに悩んでいたことも事実だ。
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