3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「彼女は弱い人なんだ。これ以上追い詰めるようなことをしないでくれないか」
わたしはそう答えていた。どうしても彼女を断罪する気になれなかったのだ。
「なるほど、キミの目にはそう映るわけだ。キミこそ、彼女の本質を見ていないのではないかね?」
「そんなことは……」
そう言いかけたが、継ぐ言葉が出てこない。わたし自身にどれほどの眼力があるだろうか。彼女の人となりをどこまで理解しているのか。上司と部下というだけで、知った気になってはいないだろうか。
「なあに、悩むことはない。人間は皆等しく心の闇を押し隠して生きる動物だ」
「……そうかも知れないが」
「何もかも美化したがるのは、キミたちの悪いクセだ。もっと本質を見てはどうかな」
「耳を貸すな。こいつは君を惑わせて楽しんでいるだけだ。自分がその目で見てどう感じたのかを忘れるな」
「やめてくれ」
わたしは思わず叫んだ。心がかき乱され、壊れてしまいそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!