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(以下、「タテワキ」の言)
左手で失礼いたします。
どこからどこまでお話いたしましょうか…。
私、岩に挟まっていたところを先々代の天塩当主に助けていただき、以来天塩一族に大変な恩がございます。とはいえ私、腕と目しか残ってないので…ああ、後ろは見ない方がよろしいかと。あまり気持ちのいいものではございません…大したこともできませんゆえ、代々本家のお子様のお守りを承っております。この目を見たお子様は、どんな癇癪をおこしても泣き止んでくださいます。
アスカお嬢様は、人混みが大変苦手でございます。
元から心配性なところも強うございましたが、以前緊張でお倒れになった際のことを体が覚えてしまい、緊張するたび体調不良も繰り返してしまうようになりました。ですが、アスカお嬢様もゆくゆくは広大な山と土地と人を統べる一族の長になるお方。学業にもお人付き合いにも励んでいただかねばなりません。
そこで、わたくしの子の目でございます。
アスカお嬢様が「タテワキ」と二度呼べば、私がお手元に現れ、この瞳で落ち着いていただく、という大事な使命を承っております。
ですが、このたび「帯刀さま」がお返事をされたため『私を呼んだ』ことにならなかったようでございます。私は、お嬢様の前に現れることができませんでした。こんなことは初めてでございます。
お嬢様は意識は取り戻しましたが、なぜか私を呼んでくださりません。私は契約に縛られているため、決まりどおり二度呼んでいただかなければ、御前に現れることができません。いま右手と右目がお嬢様のおそばについておりますが、「タ」「タテ」で止まってしまわれ、一層おろおろされております。正直、困っております。
人間の帯刀さま、同じ名前のよしみで、お嬢様にお言伝いただけませんか。
(ここまで)
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