サルとタテワキ

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「じゃーなーサル」 「帯刀って呼べ」 「山に寄り道すんなよー」 「サルじゃないからしない」  笑いながら電車を降りていく進藤を、シッシッと追い払う。悪い奴ではないが、悪ノリがすぎる。  オレは沙流川帯刀(たてわき)。「帯刀」という名前は、自分では実にカッコいい名前だと思ってるのに、どこでも大体「サル」と呼ばれる。  動物園に行けばサル山で茶化され、豊臣秀吉が出てくれば懐に上履き入れろと言われ、申年には年賀状がネタ祭り……そろそろ飽きたぞ。いいかげんにしてほしい。  車両を移動する。扉前の、いわゆる狛犬ポジがあいてるのを見つけたので右側に立つ。オレはそんなに背が高くないので、吊り革よりポールの方が掴みやすいんだ悪いか。 「……タテワキ」  誰かがオレを呼んだ。しかも名前で。  声の方を見ると、お嬢様高校の制服を着た子が、扉の左側の取手につかまって震えている。知らない顔だ…と思うが、オレは人の顔を覚えるのが苦手で、自信がなかった。 「タテワキ」 「はい」 「ひゃっ⁈」  返事をすると、女子高生はおかしな声を上げた。なんだよ、呼んだのはそっちだろ。 「あの、帯刀ですけど」 「えっ、あっ…⁈ いや、あの…ええ⁈」  女子高生は、オレと取手と床とをせわしく見回した。顔色がだんだん白くなっていく。 「あの、大丈夫ですか…わっ!」  女子高生が倒れた。
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